レベル9999のテイマーと星と湖

夢廻 怪

レベル9999のテイマーと星と湖

キラキラと、

空は満天の星に包まれていた。


湖はそれを鏡のように映し、上下の境界を失った世界を作り出している。

楕円形の湖面が静かな夜に揺れ、

森は風が吹くたび、低く音を鳴らした。


湖の畔に、金色の扉が現れる。

周囲は一瞬で光に満たされた。


そこから姿を現したのは、

男一人と、三人の女。


男は黒髪の童顔で、黒いローブを身にまとっている。

どこにでもいそうな、

どこかで見たことのある――

物語の主人公のような男だった。


「今回も上手くいったな!」


男が声を上げると、女たちが口々に続く。


「はい、流石です」

「今回もあなたのおかげです」

「本当に、毎回驚かされます」


賛美の言葉が夜に溶ける。


その瞬間、

山の方角から、銀色の線が走った。


「……なんだ?」


男は咄嗟に前へ出る。


「敵がいるみたいだな」


そう言って振り返った時、

三人の女は、すでに倒れていた。


血が湖へと流れ込み、

星の光を歪める。


「クソ……」


男は夜空を裂いた閃光の軌跡を辿り、山を見上げた。

岩の突き出た場所に、何かがいる。


(なんだ、あれは……)


「俺は9999レベルのテイマーだぞ!」


声が山に響く。


(鑑定だ……)


男が視線を凝らした先――

そこにいたのは、

狼の顔、馬の体、水生生物の尾を持つ獣に跨る、

一糸まとわぬ女性だった。


月光を受けて、白い肌が輝く。

銀色の髪が風に靡き、

赤い満月の下で、静かに光を放っている。


どこからともなく、歌声が響いた。

神聖で、冷たい旋律。


女性は、銀に輝く弓を引き絞る。


男はニヤリと笑った。


「またか!

 舐めるなよ。お前を――テイムしてやる」


放たれた銀の矢。


「バリア!!」


透明な壁が展開され、矢は空中で止まる。


次の瞬間――

無数の光が、降り注いだ。


それは星の光そのものだった。


男の体を貫き、

存在を、夜空へと溶かしていく。


やがて彼は、

空に浮かぶ星の一つとなった。


「……ふぅ」


女性は、狩りを終えたように息を整える。


「女神様……」


そう呟き、胸に手を当てると、

彼女は夜風のように消えていった。


(これが、私の宿命。

 世界の均衡を正す者)

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