献身的なメイド

ネオローレ

献身的なメイド

「旦那様。もう朝でございますよ。」


私はそう言ってカーテンを開ける。

すぐに部屋の中に人工太陽の光が室内に明るく差し込んだ。

しばらく部屋を整え、ふともう一回旦那さまのほうを見ると、まだ寝ていた。


「もう旦那様。このままじゃ仕事に遅れてしまいますよ。」


いくら言ってもずっと起きないため、仕方がなく壁のボタンを押す。

昔の旦那様はそこまでずぼらになりたくないと使用を望まなかった気がするが最近は毎日使っている。よほどお仕事が大変なのであろう。

すぐに壁からアームが出てきて食事、顔洗い、着替えを完璧に5分でこなして職場へと直通しているチューブに通って出勤していった。


「あら、ネズミ!」


無警戒にも食べ物を求めてうろついている。

すぐに家庭用動物駆除レーザーを取り出し発射する。

気づいて逃げようとしても無駄だ。光に勝てるわけがない。

今の時代はもう死体の腐敗が自然に始まらないので死体を死体処理場に出す。

旦那様もネズミもいなくなったが私の仕事はまだ終わりではない。

まだまだ毎日の日課として残された仕事はある。


毎日使ってる食事ドリンクを補充しに買い物へ出かけた。旦那様は最近瘦せているので今までより少なくてもいいかもしれない。

活気ある商店街の中で傾いた薬のマークをふと見つけた。


ああ、そういえば最近肩がこるのよね‥‥‥。


仕事の金で私用のものを買ってもいいのかとは思ったが、自分の健康も仕事の内だ。と信じて薬局の中に入った。


「おつきの方の健康手帳はお持ちでしょうか?」


旦那さま用の薬かと勘違いしているのでゆっくり首を振る。

それだけで薬剤師には通じたのか、旦那様とは別のカルテを出した。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「なんだが最近肩がきしんで‥‥‥。」


事情を聞くと薬局の皆さんはすぐに理解してくれた。


「なるほど。ならこの薬を塗ればすぐにきしみは治りますよ‥‥‥。」


しばらく話し、あまり高い薬ではないようなので買った。

私には自らの体を気遣う義務があるのだ。



家に帰り、誰もいない部屋に買い物袋をどさっと置いて片付けを始める。

買い物が終わっても自由時間など訪れない。私は毎日旦那さまの全ての家事をやる勤めがある。休み時間など訪れはしない。


大分家事も片付いて部屋に斜陽が差し込む中、旦那様がチューブからお帰りになられた。

「あら、旦那様お帰りになりましたか‥‥‥。」

まだチューブの席からピクリとも動かない旦那様にしゃべりかけた。

斜陽で黄金色に照らされた旦那様が、機械の目には明るく反射して映っていた。


「最近どこのお店でも人間の店員さんを見かけなくなったんですよ。皆疲れてるんですかね‥‥‥。」






人類滅亡まで残り-984日

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