第10話 危機と真実
その夜は、本来なら穏やかに終わるはずだった。
学院祭の余韻がまだ身体のどこかに残っていて、クラスのみんなとの打ち上げも楽しくて。
ユリと二人、ペンダントを確かめ合って、これからのことを少しだけ真面目に語り合って。
――だからこそ、油断していたのかもしれない。
寮の自室で、ベッドに腰かけたままぼんやりしていると、窓の外が一瞬だけ赤く染まった気がした。
「……ん?」
立ち上がってカーテンを開ける。
夜空に浮かぶ二つの月。その下――街の向こうの空が、じわじわと赤く明滅している。
「火事……?」
そう思った瞬間。
ビーーーーッ!
耳をつんざくような警報音が、学院全体に鳴り響いた。
『緊急事態発生! 緊急事態発生! 全ての生徒は寮に待機せよ!』
「なっ……!?」
廊下から、ドタドタと足音が聞こえてくる。
慌てた声、叫び声、扉を開ける音。
コンコンッ!
「カイト、いる!?」
ドアが勢いよく叩かれた。
「いる! 今開ける!」
扉を開けると、ユリが息を切らしながら立っていた。
顔は真剣で、完全に「モード」が切り替わっている。
「警報が……」
「学院が襲われてる」
言葉は短いが、そこには確信があった。
「窓の外、見た?」
「空が赤くなってた」
「魔力の反応も強い。多分、結界が攻撃されてる」
その言葉に、背筋がぞくりと冷えた。
「とりあえず、廊下に出よう。情報を集めないと」
◇ ◇ ◇
寮の廊下は、すでに混乱状態になっていた。
「何が起こってるの!?」
「火事なの!? それとも魔獣!?」
半泣きの下級生たちが、あちこちで先生を探している。
「みんな、落ち着いて!」
ユリが、いつもより少し大きな声で叫んだ。
「まずは先生の指示を聞いて! 勝手に外に出たら危ないわ!」
その声には、不思議な説得力があった。
ざわざわしていた廊下の空気が、少しだけ落ち着きを取り戻す。
ちょうどその時、階段の方から駆け足で近づいてくる人影があった。
「全員、ここにいたのね!」
レイナ先生だ。
「レイナ先生!」
「状況を説明します。学院が、外部の集団に攻撃されています」
「外部の集団……?」
「闇の魔術師団と呼ばれる連中よ。詳細は後。今は時間がないわ」
レイナ先生の表情は、これまで見たことがないほど険しかった。
「全員、今すぐ地下室に避難しなさい。ここはもう安全とは言えない」
「地下室……学院の防空壕みたいなところですね」
ユリが確認するように言う。
「そう。あそこには強力な防御結界が張られている。先生たちは地上で戦うから、あなたたちは絶対に外に出ないこと。いいわね?」
「はい!」
生徒たちは一斉に頷いた。
「行きましょう!」
ユリが先頭に立ち、僕たちは一列になって階段を下り始めた。
その途中――
ドゴォォンッ!!
すさまじい轟音とともに、建物全体が大きく揺れた。
天井から石片や砂埃が降ってくる。
「きゃっ!」
前を歩いていた生徒が悲鳴を上げる。
「危ない!」
ユリが即座に詠唱を開始した。
「『ウォーターシールド』!」
瞬時に展開された水の盾が、落ちてきた石材を弾き飛ばす。
石片が盾の表面を滑り落ち、床に音を立てて転がった。
「ありがとう、ユリ!」
「急いで! 次の一撃が来る前に地下室へ!」
レイナ先生の指示で、僕たちは駆け足で地下へと向かった。
◇ ◇ ◇
地下室は、広いホールのような構造だった。
石造りの壁には、複雑な魔法陣がいくつも刻まれており、淡い光を放っている。
「ここなら大丈夫だ。防御結界が多重に張られている」
レイナ先生が説明する。
すでに多くの生徒が避難してきていて、ホール中は不安と緊張の空気に満ちていた。
「先生、外はどうなっているんですか?」
誰かが尋ねる。
「学院長と数名の教師が、正門と上空で敵を食い止めている。だが、敵は強力だ」
レイナ先生は眉をひそめる。
「……本当なら、生徒をここに閉じ込めておくなんてしたくない。でも、今回は例外よ。相手が悪すぎる」
その言葉が、逆に不安を煽る。
ドゴォンッ!
先ほどより近くで、再び爆発音が響いた。
地下室の天井から、細かな砂がぱらぱらと落ちてくる。
「くっ……結界が弱まりつつあるわね」
レイナ先生が歯噛みする。
「先生は?」
ユリが尋ねる。
「私は……前線に出る。ここは学院で最も安全な場所。防御結界が完全に破られるまで、敵がここまで来ることはないはず」
「でも……」
「私は教師よ。生徒を守るのが先」
レイナ先生はきっぱりと言った。
「ここには他の先生もいる。彼らの指示に従って。黒崎、佐藤」
「はい」
「もし何かあったら、あなたたちが周りを落ち着かせてあげて」
ユリと僕は、無言で頷いた。
レイナ先生は、最後にもう一度だけ全体を見渡し、それから階段の方へ駆けていった。
◇ ◇ ◇
レイナ先生が去ると、地下室の空気は一気に不安定になった。
「どうしよう……」
「本当にここにいるだけでいいの?」
「上で戦ってる先生たち、大丈夫かな……」
中には泣き出す生徒もいる。
誰かが慰めようとするが、なかなか空気は落ち着かない。
「みんな、落ち着いて」
ユリが前に立ち、声を上げた。
「先生たちが戦ってくれている。私たちにできる一番のことは、ここで無駄に怪我をしないこと。パニックになって動き回れば、それだけで危険よ」
その言葉に、少しだけざわつきが収まる。
「でも……もし敵がここまで来たら?」
一人の生徒が震える声で尋ねた。
「その時は、Sクラスが盾になるわ」
ユリは、迷いなく答えた。
「私たちには実戦経験がある。まだまだ未熟だけど、それでも何もせずにやられるつもりはない」
その言葉に、シルヴィアとリリアン、ゴンドも頷く。
「もちろん、逃げるべき時は逃げる。でも、その判断ができるように、今は落ち着いて状況を見守りましょう」
ユリの冷静さに、生徒たちの視線が少しずつ落ち着いていく。
――しかし。
ドゴォォンッ!!
今度の衝撃は、明らかにさっきより近かった。
壁の魔法陣が一瞬揺らぎ、光が弱まる。
「今の、近くない……?」
「結界が……!」
天井に細かいひびが入り、粉塵が舞う。
「このままじゃまずいかも」
シルヴィアが小さく呟いた。
「どういう意味?」
「もし敵がここまで来たら、私たちは逃げ場を失うってこと。ここは地下だし、出口は限られてる」
確かにその通りだった。
「なら、逃げるしかない」
リリアンが静かに言った。
「この地下室には、非常時用の隠し通路があるはず。古い学院の設計図で見たことがあるの」
「隠し通路!?」
「ええ。直接、街の外れの森に出られるようになっている」
「どこにあるの?」
「この部屋の奥の壁。……この辺りよ」
リリアンが指し示した方へ、僕たちは一斉に向かった。
「継ぎ目を探すんだね」
「任せろ」
ゴンドが壁に手を当て、指先で石の感触を確かめる。
「……ここだ」
少しだけ段差のある部分を見つけ、ゴンドが力を込めて押す。
だが、壁はびくともしない。
「魔法の鍵がかかっているみたい」
「ドワーフの技術だ。複雑な魔法錠になっている」
ゴンドが目を細めた。
「開けられる?」
「時間はかかるが……やってみる」
ゴンドは腰から小さな工具のセットを取り出し、魔法錠の解析を始めた。
金属のカチカチという音と、低く呟かれるドワーフの古語。
その間にも、地上からの衝撃は続く。
ドンッ!
ドゴォンッ!!
天井のひびが広がり、ある場所では石片がぽろりと落ちた。
「早く、ゴンド!」
「わかってる!」
額に汗を浮かべながら、ゴンドは必死に手を動かす。
数十秒か、数分か――体感時間がぐにゃりと歪む。
ガチャンッ。
乾いた音とともに、壁の一部がわずかに沈んだ。
「開いた!」
ゴンドが叫ぶ。
壁が横に滑り、暗い通路の入口が現れた。
「みんな、急いで!」
ユリが声を張り上げる。
「Sクラスは最後尾! 後ろから追いつかれないように警戒して!」
「了解!」
生徒たちを先に通し、僕たちSクラスがその後に続いた。
通路に入ると、後ろの壁が自動的に閉じる。
「わっ……真っ暗」
「光の魔法を」
リリアンが手のひらに小さな光球を作り、通路を照らす。
狭い石の通路が、まっすぐ先へと伸びていた。
「この先はどこに?」
「街の外れの森に出るはず。そこまで行けば、一旦体勢を立て直せる」
「急ごう」
僕たちは早足で通路を進んでいった。
◇ ◇ ◇
どれくらい歩いただろうか。
しばらくすると、前方から外の空気の匂いがしてきた。
「……風だ」
先頭の生徒が小さく漏らす。
「出口が近い」
リリアンの光球の明るさが、少しずつ自然光に負けていく。
通路の先に、やがて四角い光の枠が見えてきた。
「あれが出口か」
「よかった……」
安堵の声があちこちから漏れる。
しかし。
「ククク……待っていたよ、転移者たち」
不気味な笑い声が、出口のすぐ外から響いた。
「っ!!」
一気に緊張が走る。
出口の前に、黒いローブをまとった男が立っていた。
顔の下半分は布で覆われ、露出した瞳だけがぎらぎらと光っている。
その背後には、黒い霧のようなものがまとわりついていた。
「闇の魔術師……!」
ユリが低く呟く。
「よくわかったな。我々は『夜明けの闇』」
男はくぐもった声で名乗った。
「お前たち転移者の力をいただきに来た」
「私たちの……力?」
思わず聞き返す。
「ふふふ……。知らないのか? 転移者とは、本来、強大な魔力を秘めてこの世界に現れる特別な存在だ」
男はゆっくりと杖を持ち上げる。
「この世界の魔力体系に属さない『異質の力』。それを抽出し、我らが主に捧げるのが、我々『夜明けの闇』の使命」
「ふざけないで」
ユリが一歩前に出た。
「私たちは……人間よ。物じゃない」
「そうだ。お前たちは貴重な『資源』だ」
男の瞳が愉悦に歪む。
「だからこそ、大切に扱ってやろう。痛みは最小限にしてやるとしよう」
「誰が従うか!」
シルヴィアが叫ぶ。
「逃げるよ!」
「全員、通路の奥に下がって!」
ユリが指示を出した瞬間――
「逃がすと思うか?」
男が杖を振るう。
黒い鎖のようなものが空間から伸び、僕たちに向かって一気に迫ってきた。
「くっ……!」
避けようとしたが、通路の出口は狭く、全員が一度に動けるわけではない。
次の瞬間、冷たい感触が全身を絡め取った。
「ぐっ……!」
「動けない……!」
黒い鎖は、身体だけでなく魔力の流れまでも縛りつけてくる。
胸の中の灯りが、ぎゅっと握り潰されるような感覚。
「さあ、まずは君からだ」
男がゆっくりとこちらに歩み寄る。
視線の先には――ユリ。
「やめろ!」
僕が叫ぶ。
「ユリには指一本触れさせない!」
「おや……?」
男の視線が、僕の胸元で止まった。
そこには、青い宝石のペンダントが光っている。
「これは……」
男の瞳がぎらりと光る。
「魔力共有のアイテムか。面白い。二人分の魔力を一度に吸えるとは、なんとも効率がいい」
「やめろ……」
胸が焼けるように熱くなってきた。
「では、まずはその娘から」
男がユリの目の前に立ち、ゆっくりと手を伸ばす。
「……っ!」
ユリが歯を食いしばるのが見えた。
その瞬間――
ペンダントが、灼けるように熱くなった。
「やめろおおおおお!!」
自分でも驚くほどの声が喉から絞り出される。
胸の奥で、何かが弾けた。
ドンッ!!
爆発的な力が全身から溢れ出す。
今まで感じたどんな魔力とも違う。
熱いのに、冷たく。重いのに、軽い。
矛盾した感覚が一気に押し寄せる。
「なっ……この魔力は……!」
男の顔から余裕が消えた。
黒い鎖が、パリンッ、と音を立てて砕け散る。
僕の身体を縛っていたものだけでなく、周りのみんなを縛っていた鎖も、同時に消滅した。
視界の端で、生徒たちが自由を取り戻し、後ろへと下がっていくのが見える。
「カイト……!」
ユリの声が聞こえた。
自分の身体を見下ろすと、淡い光の膜が全身を包んでいる。
ペンダントの青い宝石は、白に近い光を放っていた。
「離れろ……!」
意識するよりも先に、言葉が口をついて出た。
次の瞬間、男の身体が光の衝撃波に吹き飛ばされる。
黒いローブが裂け、身体ごと通路の外の木に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
男は地面に崩れ落ちる。
「今の一撃……」
自分でも信じられない力だった。
「カイト、大丈夫……?」
ユリが駆け寄ってくる。
「……わからない。でも、立ってるから、大丈夫、かな」
全身に力が入らない。
さっきまで暴れ狂っていた魔力が、一気に引いていくのがわかる。
まるで波が引いた後の砂浜のような、空虚な感覚。
「今の魔力……まさか……」
気絶しかけている男が、かすれた声で呟く。
「『異界核』……?」
「異界核?」
聞き慣れない単語が、耳に残った。
「……まずい……情報を……持ち帰らねば……」
男はフラフラしながら立ち上がろうとした。
「逃がすと思う?」
ユリが前に出る。
「『アイスバインド』」
彼女の足元から冷気が広がり、男の足元の地面が一瞬で凍りついた。
氷の鎖が足を絡め取り、身動きを封じる。
「くっ……」
男はそれでも魔力を練ろうとしたが、すぐに意識を失って倒れ込んだ。
「今のうちに、ここから離れよう」
リリアンが言う。
「でも、あいつは……」
「縛っておけば、しばらくは動けない。後で先生たちに回収してもらおう」
ゴンドが頷き、倒れた男の周囲に簡易封印の魔法陣を刻んだ。
◇ ◇ ◇
通路を抜けると、そこは街の外れにある森の中だった。
夜の風が、熱くなりすぎた身体に心地よい。
「みんな、怪我は?」
ユリが全員の状態を確認していく。
「大丈夫です」
「かすり傷くらい」
「怖かったけど、なんとか……」
幸い、重傷者はいなかった。
「でも、学院は……?」
振り返ると、学院の方角の空がまだ赤く染まっている。
「先生たちが戦ってる……」
シルヴィアの声には、不安と悔しさが混じっていた。
「私たち、逃げてきちゃったね」
「逃げるのは、悪いことじゃない」
ユリがきっぱりと言った。
「守るべきものを守るために、一度距離を取ることも必要よ」
「でも……」
「それに、学院長がきっと何か打開策を考えている」
その時――
『転移者たちよ、聞こえるか』
頭の中に、直接声が響いた。
「この声……学院長!?」
『そうだ。精神通信だ。時間がないので、簡潔に話す』
オルデンの声は、いつもより少しだけ急いでいるように聞こえた。
『敵の目的は、お前たち転移者の魔力だ。特に――』
一瞬、間があく。
『佐藤カイト。君の中に眠る『異界核』と呼ばれる力だ』
「異界核……」
さっき、男も同じことを言っていた。
「それって……なんなんですか?」
思わず問い返す。
『詳しい説明は後だ。今は要点だけ伝える』
短く息を吸う気配がした。
『異界核とは、異なる世界の魔力体系を、この世界に接続する「核」のことだ。君の中には、元の世界とこの世界をつなぐ、特別な魔力の器が存在している』
「……!」
言葉の意味は、すぐには理解しきれなかった。
『通常、転移者は強大な魔力を持ってこの世界に現れる。しかし、君の場合は少し違う』
オルデンの声が、少し柔らかくなる。
『君の魔力は、あまりにも大きすぎるがゆえに、自分自身の無意識によって封じられていた。危機的状況でのみ解放されるよう、心が勝手に制御しているのだ』
「だから、普段は魔力を感じられなかったんですね……」
今までの違和感が、一本の線で繋がっていく。
『ああ。だが、さっき君は、その封印を一時的に突破した』
「さっきの……光のこと、ですか?」
『そうだ。転移者を狙う『夜明けの闇』にとって、その情報は非常に価値がある。だからこそ、君たちをここで守りたい』
「学院は?」
ユリが問いかける。
『学院は……何とか持ち堪えている。だが、長くは持たん』
オルデンの声に、わずかな疲労が滲んだ。
『敵の狙いは、学院そのものではなく、お前たちだ。特に佐藤君の異界核だ。それを奪われれば、この世界に大きな歪みが生じる可能性がある』
「歪み……?」
『異界核は、異世界とこの世界を繋ぐ「穴」にもなり得る。悪用されれば、他の世界の災厄が、この世界になだれ込むかもしれない』
背筋が冷たくなる。
「そんな……」
『だからこそ――』
オルデンの声が、少しだけ強くなる。
『生き延びろ。佐藤君。そして、黒崎君』
「学院長……」
『君たち二人を中心に、Sクラスの仲間たちと共に、この世界の未来を切り開いてほしい』
「未来を……」
『今はこれ以上話せん。結界の維持に集中する必要がある。最後に一つだけ』
オルデンは、短く言葉を区切った。
『転移は偶然ではない。君たちがこの世界に来たのには、必ず「意味」がある』
「意味……」
『それを見つけるのは、君たち自身だ』
精神通信は、そこでぷつりと途切れた。
◇ ◇ ◇
しばらくの間、誰も口を開かなかった。
森の中を吹き抜ける風の音と、遠くの爆発音だけが聞こえる。
「……カイト」
最初に口を開いたのは、ユリだった。
「ごめん」
「え?」
「私のせいで、カイトが狙われてるみたいになって……」
「そんなわけないだろ」
言葉があまりにも的外れで、思わず笑ってしまいそうになる。
「学院長が言っていた。『意味がある』って」
ユリの目を、まっすぐに見つめる。
「僕がこの世界に来た意味は、多分一人分じゃない。ユリがいて、Sクラスのみんながいて、先生たちがいて……全部込みで、その『意味』なんだと思う」
「カイト……」
「それに、ユリがいなかったら、さっきの闇の魔術師だって倒せなかったかもしれない。ペンダントも、魔法のサポートも。全部ユリがいてくれたからだ」
しばらく黙っていたユリが、小さく笑った。
「……ありがとう」
その笑顔は、いつもより少しだけ弱く、でも確かに前を向いていた。
「これからどうする?」
シルヴィアが尋ねる。
「学院に戻ることはできない。正門や上空は敵と先生たちの戦場になっているはずだし」
「一度、街の安全な場所に避難するべきだと思う」
リリアンが提案する。
「ギルドか、教会か……」
「それと、学院長の話、みんなにも共有した方がよくない?」
ゴンドが真剣な顔で言う。
「『異界核』なんてものがカイトの中にあるってことも、『夜明けの闇』がそれを狙っているってことも」
「そうだね」
隠しておける規模の話ではない。
むしろ、黙っている方が危険だ。
「じゃあ、一旦街の外れで隊列を整えて、安全なルートで街中に入ろう」
ユリが指揮をとる。
「その間、カイト」
「うん」
「無理しないでね」
「……うん」
本当は、今すぐ倒れ込みたいくらいに疲れている。
でも、ここで膝をつくわけにはいかなかった。
胸元のペンダントにそっと触れる。
青い宝石は、さっきよりも落ち着いた光を放っていた。
――異界核。
――この世界に来た意味。
まだ何もわからない。
でも、確かに一つだけわかっていることがある。
「絶対に、守る」
小さく、誰にも聞こえないくらいの声で呟いた。
ユリを。
クラスメイトを。
この世界で出会ったみんなを。
そして、僕自身が見つけなければならない「意味」を。
夜の森を、僕たちはゆっくりと歩き出した。
これまでの「学校生活編」の終わりと――
これから始まる「本当の戦い」の始まりを、歩幅で噛みしめるように。
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