カワセ カナ代行サイト

非不未

カワセ カナ代行サイト

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カワセ カナの代わりになってもらいます。

 

説明

・下の再生ボタンを押してもらえれば、彼女の代わりになれます。

・体験出来るのは彼女が高校生であった期間です。

・一度再生したら止めることはできません。忘れることもできません。人生と同じように。



電話番号:■■■-■■■■-■■■■

住  所:■■県■■市■区■■■■町■■-■■

生年月日:■■月■■日



では、貴方もカワセ カナの青春を体験してきてください。



         《再生》


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上村 重行の証言



あのサイトは暇な時にネットニュースで見つけたんですよ。

ほら、あの下から出てくる広告あるじゃないですか。そこにあったんですよね。

いや、最初は私も不気味で触りたくも無かったんですけどね。

仕事でストレスが溜まって家で酒を飲んだときに好奇心で見ちゃって。

ほんと、酒ってよくないですよね(笑)

そのときには私もちょっとしたホラーサイトを覗く感じで見ちゃったんですよ。

8月だったし

それで、開いたら中央にでっかく『カワセ カナの代わりになってもらいます。』って。

少し下にスクロールすると今度は『説明』

そして、最後には多分カワセ カナの個人情報。

個人情報載せてるっていう異常さからこのとき一瞬静まり返りましたね。

で、しっかり説明を読みました。

要約すると、下の再生ボタンを押せば女子高生の代わりになれて青春を体験できるということが書いてありました。

私ももう30近くなったし、高校では教室の端っことかに居るような人間だったので「青春を体験出来る」なんてこと言われたら気になりますよね。

で、案の定私は吸い寄せられるように再生ボタンを押したと。


再生ボタンっていうから動画が画面に現れるのかなって思うじゃないですか、

でも、再生されたのは動画なんかじゃなかった。

私はいつの間にか知らない人の家のベッドで寝転がってたんです。

そのとき、直感で分かったんです。

あ、再生されたのはカワセ カナの人生なんだなって。

つまり、私の人生の中でカワセ カナの人生が再生された感じ?がして。

それはそれは怖かったですよ。もう、元に戻れないと思ったんで。

でも、何もしないわけにもいかないんで一旦ベッドから起き上がって状況確認をしました。

10/6(日)10:34を示すデジタル時計

ベッドの横の勉強机

好きだったであろう漫画

2018年のカレンダー

川瀬 加奈と書かれた鞄

まぁ、こんなもんでした。

家で酒飲んでた瞬間は2024年の8月だったんで時間も変わってましたね。

そのあとは、私は川瀬 加奈となった自分の姿を確認しようと鏡を探しました。

川瀬 加奈の部屋には鏡は無かったので部屋を出たとき初めてここは2階なんだって気づきました。目の前に階段があったので。

恐る恐るその階段を降りていくと違和感を感じたんですよ。

なんか、妙に静かっていうか。

日曜日の10時なのに人の気配がしないんですよ。

もしかしたら一人暮らしを始めた高校生なのかな?とも思いましたけど

2階建ての家に住むか?って思って一人暮らしの可能性はすぐになくなりましたね。

だから、家族は出掛けてるんだろうと思ってリビングであろう部屋の扉を開けました。


リビングが荒れてました。

誰かが暴れたって感じでした。

そこから散らかってる物を避けて鏡を探したんですけどすぐに見つかりました。

でも、割れてる状態で。

洗面器の前についてた大きな鏡にヒビが入ってました。

割れた破片を踏んじゃったみたいで痛かったのを今でも思い出します。

他に鏡はないか探すと手鏡がありました。

どうやら割れてるのは大きな鏡だけらしくてホッとしました。

そこで初めて、川瀬 加奈の姿を見たんですけど普通の女子高生でした。

こんな事言ったら怒られそうですけど、正直、スタイルも良くて健康そうな顔だったので元の上村 重行だった頃より楽しく過ごせそうだなと思いました。

そのあとはリビングの掃除と情報収集をしました。

一日目は日曜日だったけど明日になれば月曜日だから向かう学校のことについて知らないといけないなって気づいて。

学校名や出席番号、持っていくべき明日の道具など調べました。

どうやって調べたのか気になると思うんですがそれは彼女のスマホを使いました。パスワードは無かったので良かったです。

調べたら意外と成績は良いみたいで、ほんと完璧な人間なんだなと感じて少しだけこれからの高校生活が楽しみになりました。

そして、その日は準備万端にして寝ました。

寝るのは12時だったんですがまだ親らしき人は来てませんでした。


二日目、この日から段々と川瀬 加奈という人物について分かってきます。

朝は事前に調べた通りのルートで学校へ向かい時間通りに行動しました。

ちゃんと間に合って良かったのですが、明らかに周りの人間のこちらを見る目がおかしかったんです。

こっちを見ないようにしてる感じで。

挨拶をしても無視される。

なんか、避けるような行動も多く見られましたし。

完全に「いじめ」でした。

意図的に私を無視する。


やっぱり「いじめ」なんてない方がいいですね。初めていじめを受ける側を体験しましたが、いい気分なんて全くしません。

席が分からなかったので仕方なく教室の端でうろちょろして最後に余った席に座りました。

さらに、驚いたことにどうやら生徒だけでなく教師も私を無視しているようでした。

授業中、順番に当てていったのに私の番になったら飛ばして後ろの人を当てたんです。


その日はそれ以上何も無く、全員に無視されて終わりました。

帰りは朝と同じルートで家に帰りました。

気付いたら私はベッドの上で泣いていました。

リビングが荒れてたのはいじめが辛くて川瀬 加奈が暴れた結果だと思いました。


そしてこれが、川瀬 加奈の青春でした。

いじめを受けるだけの青春。


三日目、泣いていたらいつの間にか寝てしまっていたみたいです。

三日目は二日目と違ってほんと憂鬱でした。

でも、なんとか勇気を出して学校に向かいました。

でも、結局何も変わらず無視される。

やっぱりいじめられる原因って嫉妬とかから来るんでしょうか?

少し考えたんですよ。

もし、川瀬 加奈みたいな完璧な人間が私の近くにいたらどうするだろうって。

嫌じゃないですか。

何でこいつだけ才能があるんだ。

って私もきっとそう思います。


感情がぐちゃぐちゃになった人間ってどうするか分かります?

他責思考になっちゃうんですよ。

産んだ親が悪いって。

で、思い出したんですよ。

あれ?私の親はどこにいるんだ?と

あれから親らしき人は一向に帰って来てません。

寝てる間も帰ってきた形跡は見つからないし、

なので三日目は家に帰った後親を探しました。

でも、それから一向に見つかりません。

置いて行かれたのか、亡くなっているのか。

多分、どちらかだと思いました。


あ、この日分かった事がもう一つ。

親を探して外を歩いていると70歳くらいのお婆さんに会いました。

多分、隣に住んでるんでしょうね。

私は何か聞いてみようと挨拶をしました。

でも、やっぱり無視するんですよ。

優しそうな雰囲気の人だったし、耳が遠いのかな?と思いました。

でも、そんな事ないですよね。

このとき分かりました。

私は生徒からだけでなく周りの地域の人からも避けられてる。

つまり、村八分を受けてるんだなと。


三日目の収穫はこのくらいです。


そして、四日目は初めて学校に行きませんでした。

ベッドから身体が動かないんです。

鬱って言う状態なんですかね。

そろそろ川瀬 加奈を辞めたいなって強く思うようになりました。

そのとき、あのサイトに書いてあったことを思い出しました。

「体験出来るのは彼女の高校生であった期間です。」

高校生であった期間。

ということは「高校を卒業するまで」だと私は解釈しました。

そして、私は心に決めました。

川瀬 加奈には申し訳ないがもう高校には行きたくないから卒業式を出るだけ出て辞めてしまおうと。

そこからはすぐです。

ずっとベッドで過ごして、気付いたら半年。

気づけば2年生です。

誰からも心配の電話はされないので暇でした。

ベッドにいる間は何をしたかって?寝るかスマホ触るかですよ。

遊んでる訳じゃなくてこれ以外何も出来ないんです。


2年も3年も何もなかったので卒業まで話を飛ばしますね。


卒業式の日、私は久しぶりに学校へ行きました。

無視をされ続けて。

学校に着くと顔も知らない同級生が集まってました。

私は何も指示されなかったので仕方なく一番後ろに並びました。

でも、お察しの通り席はないし名前も呼ばれず仕舞いでした。

まあ、つまり卒業できなかったと判定されてしまったんでしょうね。

私は川瀬 加奈のままでした。

そのとき、またあのサイトを思い出しました。

「一度再生したら止めることはできません。忘れることもできません。人生と同じように。」

止めることはできない。って書かれていることから最初からいじめのせいで卒業できないってことは決まってたんでしょうね。

酷い話ですよね。


そう、これで振り出しに戻ってしまいました。

がっかりして家に帰り、またベッドに寝転がったときです。


「ここまで連れてきてくれてありがとう。身代わりがいないと動けなかったから。」


って聞こえてきたんです。

聞こえたと言っても窓の外から聞こえた訳ではありません。

なんというか自分の内側から。

多分、川瀬 加奈の声です。


驚きましたが何か元に戻るヒントがあるかもしれないと思い冷静になって考えることにしました。

「身代わりがいないと動けなかったから。」そう言った事から代わりになる前は動けない状態だったと分かりました。

そこから、私は何かの病気だったのだろうと考えました。

けど、代わりになった私の身には特に重い症状などは見られませんでした。

では、何故動けなかったのか。


少し行き止まってしまったので私は川瀬 加奈のスマホで2018年の10月に何があったのか調べてみることにしました。


調べた結果、あったんですよ。

まずは、10月4日の新聞の一部です。

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一家強盗殺人事件



十月三日午前一時頃、■■市■区■■■■町で強盗殺人事件が起こった。

殺害されたのは■■■■町に住む3人の親子で亡くなった状態で発見された。


         ---中略---         


通報をしたのは近くに住む70代の女性だった。

警察が確認した頃にはもう既に犯人は逃走しており、荒らされていた。


犯人は未だ捕まっておらず警察は注意喚起と情報収集を行っている。

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次に、その通報をした70代女性の話の文字起こし。


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私は夜中に何かが割れる音を聞いて。

なんかガラスとか鏡とかが割れる音です。

その音で夜中なのに目を覚ましちゃって。

しかも、その後はずっとリビングのあたりで誰かが暴れてるような音がして。

仲の良かったお隣さんだったもんですから無事かどうか気になって朝になったらインターホンを押しに行ったのね。

そしたら、返事がなくて通報したらこんなことになっちゃって…。


本当に早く犯人には捕まってほしいですね。

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最後に、これが犯人探しのポスター。


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強盗殺人


・10月3日の午前1時頃■■市■区■■■■町での事件

・名前不明

・外股の男性

・身長は160〜170


名前:高橋 悠馬

この顔にピンときたら警察まで!!


懸賞金100万

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私が代わるときには川瀬 加奈はもうこの世にはいなかったんです。


地縛霊って突然の不条理な死によって生じる心の未整理が原因で生まれることが多いらしいんですよ。

例えば事件とか事故とか。

きっと彼女は地縛霊だったんでしょうね。

だから、川瀬 加奈は動けなかったと推測しました。


そして、もう一つここから分かったのは

私は別にいじめを受けていた訳では無かったということです。

彼女は霊的な存在で私は霊となっていた。

霊だったらそりゃ皆無視しますよね。見えないですもん。

あと、あのとき挨拶したら無視した70代くらいの女性。

あの人、通報してくれた人だったんですね。


彼女の周りは皆いい人達でした。

色々と悪く思ってしまって気持ちはよくないですね。



そこまで分かったとき、私は元の上村 重行に戻っていました。

この事実を知ることが元に戻る鍵だったのかもしれませんね。


でも、私は目を覚ましたら全く知らない部屋に居たんですよ。

まぁ、部屋っていうかここなんですけど。



焦りましたよ。

展開が急すぎて。

何かの間違いだろうと思ってまず鉄格子の外にいた警備員さんに声をかけました。

私、なんでこんなとこにいるんですか?って

でも「またか、落ち着け」

としか言ってくれなくて。

今度は、私何したんですか?って聞くと呆れた感じの声で

「何回言えば分かるんだお前は。あのな、例え相手が誰であろうと命は奪ってはいけないんだ。例え、指名手配されてた高橋 悠馬を見つけたとしても。」

その時初めて知りました。

私は今、殺人罪で捕まってるってことを。


しかも、あなたたちの話によると私、高橋 悠馬を手に掛けたらしいじゃないですか。

ちょうど川瀬 加奈を殺した犯人ですよ。

これで、あのサイトの真相がわかりました。


あのサイトは私が川瀬 加奈になるのではなく、

川瀬 加奈が私になるという意味だったんです。


そういう意味での

「カワセ カナの代わりになってもらいます。」

「身代わりがいないと動けなかったから。」

だったんです。


あの再生ボタンを押したときおそらく私の身体に川瀬 加奈が入ってきて活動してたのでしょう。

川瀬 加奈の目的はただ一つ、自分と両親を殺し逃げ続けている犯人を見つけ復讐すること。

別に自分の身体じゃないから何しても良いと思ってたんでしょうね。

そして、彼女は高橋 悠馬を見つけて手に掛けた。

最後は笑って自首したらしいじゃないですか。

これも自分の身体じゃないからできたんでしょうけど。



因みに、今ってこのサイト消えてるらしいんですよ。

スマホはここにないんで警備員の方に聞いたらそんなサイトないって言われて。

もう、見たくもないですけどなんか嘘話してるみたいでこれはこれでいやですね(笑)


私はどうせ信じてくれないと分かってます。

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