第9話 罠の迷宮

深層の階層に入ると、通路の空気はさらに重く、湿り気を帯びていた。石の床はところどころひび割れ、壁には奇怪な魔法陣や古代文字が刻まれている。


「……油断できないな。」

キースは剣を握り直し、猫たちに視線を送る。ミィ、黒猫、シャオの三匹は身を低くし、周囲を警戒している。


通路を進むと、床に微かに光る線が見えた。細い線は複雑に交差し、足を踏み入れると即座に発動しそうな気配を漂わせている。

「……罠だな。」

キースは思わず息を呑む。最弱の自分には一歩間違えば即死の可能性もある。


「……よし、ミィ、頼む。」

【まねきねこ、発動】

【対象:ミィ、黒猫、シャオ】


三匹の猫型モンスターは床の光を警戒し、軽やかに前方を跳ねながら進む。床の微妙な凹凸や、光る線の反応を察知して、キースに安全な道を示してくれる。


「……すごいな、これなら安心して進める。」

キースは剣を軽く握り直し、猫たちの後に続いた。


しかし、迷宮は予想以上に巧妙だった。通路の先には、圧縮空気で作動する矢の罠、魔法陣による石弾の発射装置、そして突然落ちてくる天井のトラップが仕掛けられている。


「……一人じゃ無理だな。」

キースは壁際に身を寄せ、猫たちと連携して慎重に進む。


ミィは矢の軌道を予測してジャンプし、黒猫は石弾の落下地点を示す。シャオは天井の不自然な影に反応して警告を出す。

「……助かる。」

キースは小さく呟きながら、三匹の動きに合わせて剣を振り、罠を解除しながら進む。


通路の奥で、突然地面が沈む感触があった。

「……くっ、落とし穴か!」

足元が崩れ、キースは咄嗟に剣で床を蹴って踏みとどまる。


「ミィ、黒猫、シャオ、支えてくれ!」

三匹はキースの周囲で体を低く構え、踏みとどまる足場を確保するように動く。

小さな体が、圧倒的に強力な罠を補助する――その連携は、まるで生きた指揮系統のようだった。


「……よし、行くぞ。」

キースは剣を握り直し、三匹と共に落とし穴を越える。通路はさらに迷宮らしい入り組んだ構造になっており、左に曲がると細い通路があり、右には広間が続いている。


「……どっちに行く?」

猫たちは小さく鳴きながら、右の広間を示すように動いた。

「……そうか、直感か。」

キースは頷き、猫たちに従って進む。


広間に入ると、中央に古びた祭壇のような構造物があり、その周囲に複雑な魔法陣が描かれていた。微かに光を放つ魔法陣は、触れれば強力な攻撃を発動しそうだ。


「……ここも罠か。」

キースは深呼吸し、猫たちの動きを確認する。ミィが祭壇周囲を歩き、危険なポイントを察知。黒猫とシャオも小さく鳴いて警告を出す。


「……よし、行くぞ、みんな。」

三匹の猫型モンスターが先導し、キースは慎重に通路を進む。連携は完璧で、魔法陣を避けながら安全に広間を通過することができた。


広間の奥で息を整えるキース。三匹は互いに体を擦り合わせ、絆を確かめるように小さく鳴く。

「……やっぱり、仲間がいるって強いな。」

最弱と呼ばれた自分でも、信頼できる仲間がいればここまで来られる。キースはそう実感した。


通路の先に、再び深くうねる暗闇が広がる。未知の罠とモンスターが、二人と三匹を待ち構えている。

「……行こう、ミィ、黒猫、シャオ。」

キースは剣を握り直し、仲間たちと共に、罠の迷宮を抜けてさらに深層へ進むのだった。

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