変わり者な僕らの魔界ツアー

どすこい時雨丸

1−1

薄暗いワンルーム。蛍光灯すらつけず、月明かりだけが部屋を照らす中、床に広げたB2サイズの紙に書き殴られた魔法陣を眺め、僕は深呼吸した。

「…理論が間違ってなければ、これで。」


皿の上の蝋燭に火をつけ、呪文を詠唱する。酒に酔ったかのような世界の”ねじれ”を感じた後、甘く不吉な香りが漂う。


魔法陣があやしく輝き始め、その中心から光そのものが人型を形成し、それはあらわれた。とっさにメガネをなおし、凝視する。


ピンクのショートボブヘアの少女。しかし彼女には人間ならありえない、小さな羽と黒い尻尾が生えていた。


彼女こそ、魔物。人の精を喰らうとされている、サキュバスだ。ピンクゴールドの瞳が、僕を映している。


静寂ののち、どちらからともなく、口を開いた。

「「本当に、成功した…」」


ん?と思うと、目の前の少女は興奮気味に僕の顔をまじまじと見つめる。

胸元が大胆に開いた黒いワンピースから、見えるふわっとした大きな胸から思わず目を逸らす。


「…確認だけど、君は本当にサキュバス?」

「うん!ラブって名前なの。あなたは正真正銘の人間さん?」

「そう、そうだよ。僕は黒間。君にお願いがあって呼んだんだ。」


彼女は目を輝かせながら部屋をくるりと見回す。なにあれ、これなに、と興味津々なのを顔が物語っている。

さて、何も僕はいやらしい感情のために彼女を呼んだのではない…つもりだ。


「僕を魔界に連れていってほしい。」


僕の願いにラブは一瞬目を丸くするも、

「うーん、いいよ!」

と即答。えっ、と僕は拍子抜けする。


「でも…」

と彼女が続けるのを聞いてすぐさま、

「っ!帰れなくったっていい!自分のことは、対応できる範囲でやる!とにかく…」

「まってまって、わかったから落ち着いてよー。」


すると徐々に魔法陣の光が薄れ始め、チカチカとしてくる。まずい。

「あっ、”門”が閉まりそうだね。それじゃあお兄さん、手を繋いで?」


彼女は僕に向けて手を伸ばす。

まるで月光が後光のように見え、息を呑みつつ、その手を掴む。


「えへへ、多分そんなに怖がることはないよ。多分楽しくなるよ?」

光が僕たちをつつみ、

「あたしがある程度面倒は見るし、案内もするから!」

意識がふわっと軽くなり、そして、

「だから、あたしにも人間のこと、教えてね?」



部屋には、静かな空気だけが残った。

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