My sweet home~恋のカタチ。32--snow white--
森野日菜
第1話 February(1)
こうして
奏はさくらのレッスンを受けることになった。
神保町のわき道をどんどん入って行ったところにある古いビル。
そこの地下に降りてゆくさくらの後をついていった。
重い扉を開け、電気を点ける。
わ・・
奏は驚いて目を見張った。
学校の教室くらいの広さのスペースにグランドピアノが2台。
簡単なテーブルにホワイトボードがぽつんと置かれている。
「地下だから夜も音は気にしなくても大丈夫。」
さくらはニッコリ笑った。
「ここが、先生のレッスン場ですか、」
「あたしひとりじゃねー。 維持できないから。 同じようにレッスンつけてる先生たちと共同で借りてるの。だから、あたしが使えるのは週2日。 2時間ずつ。 あたしは週に3回藝大で講師の仕事して。 あとは基本日比谷にある音楽プロデューサーの藤堂さんの事務所に勤務してる。 もう何が本職かわかんないくらい何でも屋なんだけど。 沢藤先生のところはピアノのレッスンだけだったと思うけど、ここで音楽理論とかソルフェージュも教えるから。」
本棚にたくさんの楽譜や資料がぎゅうぎゅうに詰まっている。
それを見ていると
わくわくした。
「とりあえずヒライのコンクールが終わるのが・・5月だからそれまではコンクール用のレッスンして。その後から理論なんかはやって行こうと思うの。 藝高は難関だけど・・中学生が受験に必要なことはまだ大学受験の比じゃないからまだマシだと思うわ、」
「ハイ、」
神妙に聞いていると、いきなりドアが開いたのでびっくりして振り返った。
「すみませーん・・ちょっと遅れちゃって、」
まっすぐな髪が背中まで伸びた、そして同じように手足もスラっと長いのが印象的な制服姿の少女・・。
「あれ? もうしばらく来なくていいって言ったのに。」
「なんかさー、さくら先生のトコ来ないと。 調子狂っちゃうし。」
「優等生~~~」
さくらはアハハと笑った。
「彼女、今あたしが教えてるもう一人の学生。 」
「え・・」
奏はもう一度彼女の方を見た。
「あ、新しい生徒さん? こんにちわ。 あたし、神宮寺 律。」
満面の笑顔にやや気圧された。
「た、高遠・・奏といいます。 今、中学2年生で。」
「へー、大人っぽいね。 高校生くらいかと思った、」
「彼女、藝高に合格したんだよ、」
さくらに言われて、
「え、ホントですか?」
「うん、この前発表があって。 何とか、」
律はにっこり笑った。
「この子も藝高目指してるの。 いろいろ教えてあげて。」
「そっかー。 あたし、高校に行ってもここに通うつもりだから。 よろしくね、」
「こちらこそ、」
「んじゃあ。 試験の課題曲。 弾いてあげちゃおうっかなー。」
律は荷物を置いてピアノの前に座った。
「頼んでないから、」
さくらは笑ってしまった。
「や、こんくらいのが出るよーって。 そんな感じで。」
彼女が徐に弾き始めたのは
リスト パガニーニ大練習曲 S. 141 より第6番 イ短調
リスト・・
奏の大好きな曲のひとつだった。
そして
・・巧い。
彼女のテクニックにただ驚くだけだった。
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