見知らぬあの人と未知の概念 ~夢みる妖精とゴーレムのみる夢【オムニバス作品集】~
そうじ職人
第1話 見知らぬあの人
「お母様……」
アタイにとって焼け落ちたユグドラシルの大樹は、何十年経っても大切なお母様なのだ。
今では焼け落ちた大樹の
元妖精族の女王プリシラは、ユグドラシルの大樹が再び立派に育つことを信じて、今日も若木を見付けては朝露を含んだ葉っぱを水桶代わりに運んでは水遣りを欠かさない。
「魔族って本当に馬鹿バッカリよね!」
プリシラの言い分はもっともである。
そもそもこの世界の魔素の元であるエーテル元素はこのユグドラシルの大樹が循環を担っていたのだ。
それを魔族の大軍は領土を奪うことだけのために、ユグドラシルの大樹ごと妖精の森を焼き尽くしてしまった。
そのために今のこの世界の魔素は、とても不安定な元素となり下がってしまっている。
それは強大な魔力を背景に勢力を拡大してきた、魔族自身の衰退の始まりに過ぎなかったのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして更に数年後……
風の噂で魔王に対抗できるような、強い勇者が誕生したってことを知ったの。
ウソかホントかは分からないけど、勇者は異世界から召還したって話だったわ。
そんなある日、白銀に
颯爽と大地に降り立つあの人は、アタイにとっては白馬の騎士様に見えたわ。
だけど腰に帯びるのは美しい剣などではなく、不格好な形をした真っ黒なヤッパリ金属製の何かだったのよ。
あの人自体がまさに『未知』の
あの人は妖精の森に辿り着くと、大きな声で呼びかけていたわ。
「おーい! 誰かいないのかぁ」
もちろん、アタイだってズーッと一人きりだったんだもの。
直ぐにでも、姿を現わしてあの人の元へ飛んで行きたかったわ。
文字どおりにこの美しく透けるような羽根を使ってね。
だけど目にしたあの人自身はカッコいいのだけど、乗り付けた白馬代わりの金属で出来た
だって、仕方ないでしょ! 未知の物って、いつだって怖いものなのだから。
お母様の……ユグドラシルの大樹の焼け跡にはいくつもの
だからあの人が来てからは、開けた広場が一望できるこの部屋であの人を見つめ続けたわ。
最近の人間は火を起こす魔術も、下手ッピになってるみたい。
あの人は広場の中央に布で小さな家を作って、その前に枯れ木を組んで火の魔術をつかう……のかと思って見てたんだけど、ポケットから小っちゃな箱を取り出して魔法も使わずに火を生み出したの。
あなたに、その時の衝撃の光景を想像できるかしら?
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