第2話 「現実的なオカルト」



小林からの連絡は、決まって佐伯が一番静かな時間を選んで来る。大学時代から変わらない癖だ。


「なあ佐伯。たぶん今回はお前の守備範囲だ」


その一言で、佐伯は資料を閉じた。小林は無駄な話を持ってこない。オカルトの皮を被っていても、中身が現実に触れていなければ投げてこない嗅覚がある。


「因習村。山神。人身御供」


「結論から言う。人身御供はない」


「分かってる。信じてたら最初からお前に振らない」


小林はフリーのライターだ。サブカル、とりわけオカルトは安定した飯の種だが、信仰はしない。ただ、人が避ける話題ほど需要があることを知っている。


「人が嫌がる話ほど、誰かは聞きたがる」


それが小林のモットーだった。


「欲しいのは現実的な説明。いつも通りでいい」


佐伯はノートを開く。


「人身御供という言葉は説明じゃない。説明を止めるためのラベルだ。怖い言葉を置けば、細部を問われなくなる」


「いいな、それ」


「山神も同じだ。信仰じゃない。機能だ。山や水、資源に紐づいた物語。信じてるかどうかは関係ない」


「使えるかどうか、か」


小林のブログは、考察系動画のネタにされることが多かった。本人が関与しないまま再生数だけが伸び、コメント欄で勝手に話が膨らむ。


「だからチャンネル作った」


「……唐突だな」


「自分で喋った方が早い。そこそこ回ってる」


「で、山入村」


小林の声が少し落ちる。


「オカルトとしては弱い。でも毎年きっちり二人。高校生が死ぬか消える。理由は事故、自殺、失踪。全部違うのに数字だけ揃ってる」


佐伯はペンを止めた。


「……それで?」


「やっぱりそこだよな」


小林は、佐伯が興味を持つ境界を嗅ぎ分ける才能がある。そして関与するかの判断は佐伯に任せている。それは大抵okの返事がくるからだ。


「説明が整いすぎてる場所は面倒だぞ」


「知ってる。だから判断は振らない。情報だけ」


通話を切った後、佐伯はノートに書き込んだ。

人身御供――仮ラベル。

山神――機能。

高校生二人――固定された頻度。


山入村、日常の中にある規律性が佐伯の目に留まる。

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