日陰者とかいう不遇スキルしかない中、何とか暗躍して戦争をいくつか止める話

@agkiangoinb

第1話

教会統一暦782年

12月9日未明 シュバリエ辺境伯邸宅

俺は大豪邸の一部屋にて、乱雑に積み上げられた書類を手早く漁る。

耳に取り付けた魔道具から部隊長の声が聞こえてくる。


「警備が来るまであと1分を切った、ブツはあきらめて、ルート13で戻ってこい。」


俺は声を無視し、黒いファイルの中をなるべく素早くそれでいて見落とさないよう注意しながら探し続ける。


これだ


一見何の価値もないように見えるただの物流の記録。どこに何をどのくらい運び込んだのかが淡々と情報として記されている紙切れ、そのうちの一枚をポケットの中に忍ばせるとドアに向かって歩きだした。


間に合うだろうか


そんな希望は一瞬にして崩れ落ちる。

「誰かいるのか?」

ドアの向こうから男の声がする。

シクったな

耳の魔道具から魔力を感じることは出来ない。

切りやがった こっちで何とかしろってことね

「開けるぞ。」別の声がドアの向こうでそう告げる。

警備は2人ね。

ひとまずは部屋の隅に身を隠し、魔力を発動させる。


日陰者

そう呼称される俺の魔力は珍しくも、強力でもない。

ただ、認識されづらくなるだけ。影が薄くなる、それだけの能力。

世界には自身の存在を完全に制御できるやつもいるぐらいだから、ほんと生まれの差ってのは残酷なもんだ。


2人相手だと不意打ちもそこまで強力じゃないし、それに16歳のこの体での大の大人、それも訓練された奴らと戦いたくはない。戦闘訓練の成績だってあんまりよくないし。

何とかやり過ごせないかと息をひそめつつ隙を伺う。もちろん逃げ出すために。

「だれもいねぇな 勘違いかじゃねぇの?」

「おかしいな 明かりが見えたような気がしたんだが」

二人があたりを見渡し、目線がズレた瞬間一気にドアから外へと脱出する。

あぶねぇ 

何とか部屋を出て、そのまま廊下を進む。入ってきた時と同じよう1階に降り、警備の死角になっているルートから出れば、転送用の魔道具を使えばいいだけ。

どのルートで戻るのがいいかななんて考えながら足早に廊下を曲がると、若い女が向かいから歩いてきていた。

あれは、侍女のベレッタ。はぁ?なんでここにいんだよ

「きゃっ」

小さく悲鳴をあげるがすぐに

「あら ごめんなさい急に出てきたものだから。どなた?」と尋ねてきた。

それなりの身分に見えるような身なりはしているし、何よりもこの家の厳重な警備が侵入者を許すわけがない、そんな認識に助けられたのだろう。だが、少しでも怪しまれるとまずい。

「ライゼンバーグの使いのものです。辺境伯に伝令がありまして。」淀みなく端的にそう告げる。

「こんな時間に?」驚きと心配のこもった声で聞いてくる。

「えぇ何しろ、」俺はそう言うと意味ありげに目線を伏せる。

「あぁそうですね こんなご時世ですもの」

賢い女で助かった。

「とりあえず私が来たということはご内密に。私をここで見なかったものとしていただきたい。」まぁ、日陰者の認識阻害が働くから俺の顔や話した内容なんて明日にはよく覚えていないわけだが。

「わかりました。では」

そう言って彼女は去っていった。

その後はつつがなく邸宅を後にし、転送魔法を用いて情報特別作戦部隊の部隊室へと帰還する。


薄暗い部屋の中、

「おっつー」

レイナがそう言って出迎える。

「おい お前、通信切ったろ」

「しょうがないじゃん それにあんたがボスの指示無視するのがいけないんでしょ」

「まったくだ 帰ってこれたからよかったものを」

もう一人の男・クラウスがそう告げる。

「でも、こいつは手に入ったぜ」

そう言って俺はクラウスに今日の仕事の成果を手渡す。

「お前はそれなりには大事な存在なんだから あんな危険は二度と冒さないようにな」

「それなりには ね」レイナが横からそう強調する。

「それにまだ子供なんだからあんま無茶すんなよ」

「子供とか、この仕事してる以上関係ないね」俺は言い返す。

「ガキが生意気言って」俺の頭を掴みながらレイナがそう言った。

「俺らあんま年変わんないじゃん」

「それにあんたが死んだらフランちゃん泣いちゃうわよ」

「あいつは今関係ないだろ、ていうか今時何?」フランで思い出した。明日、もう今日だけど学校あるじゃん。

「3時半だね」時計を確認し、クラウスがそう答える。

「やっべ、早く寝ないと。じゃ」あわただしく荷物をまとめて俺は部隊室を後にする。

「まったく、あの子、ああいうところは可愛いんだけどね」

残された二人は顔を見合わせ笑った。

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