告白練習相手の幼馴染の様子がおかしい?
長晴
第1話
放課後の河川敷は、まだ四月の風が肌寒くて、制服のブレザーを脱ぐ気にはなれない。
俺――相沢ユウ(高1)は、濡れたスニーカーを日向に向けて放置しながら、ひとつ息をつく。
理由は簡単。昼休み、クラスでちょっと水をかけられた。
「青春だな!」とか言って笑ってるやつは、たぶん心臓に毛が生えてる。
隣には、ポケットに手を突っ込んだまま座る女――篠原ミオ。
俺の家の隣。幼なじみ。
文句は多いけど、結局迎えに来たり、こうして座ってたり、そういうやつ。
「――告白する」
俺が言うと、ミオは空を見たまま言った。
「突然だね。てかそれ、先週も聞いた」
「今回は本当だって」
「先月は? “中学の卒業式で言うつもりだった”って」
「……それは、タイミングを外しただけ」
「うん、まあ聞いてるこっちは慣れたけど」
声はぶっきらぼうだけど、トゲはない。
ミオはこういう時、いつも“聞く役”をする。
俺がなんか言えば、そっちの方が楽だからだ。
「告白する相手って、クラスの橘さんでしょ」
「……なんでわかる」
「一年の女子で“可愛い”の三連単、名前挙がるの、橘さんか、転校生か、陸上部の子か。
で、転校生はまだ情報不足、陸上部は先輩狙い。消去法」
「探偵かお前」
「ただの観察だよ。私、暇だし」
ミオは肩をすくめる。
こんなとこだけ賢い。
俺は草を引っ張りながら言った。
「……そろそろ言わないとさ。高校入ったし。変わりたい」
「ふーん」
興味ないようで、少しだけ声が柔らかい。
「で、困ったことがある」
「その時点で変われてない気がするけど?」
「練習、付き合ってくれない?」
沈黙。
ミオはようやく俺を向いた。
切れ長の目が少し細くなる。
「相手、私?」
「幼なじみだし、一番……やりやすいっていうか」
「“やりやすい”ね。ふーん」
トゲがほんの少し乗った。
けど、すぐ言う。
「いいよ」
「あっさりしすぎじゃね?」
「悪いの? 断られたいわけ?」
そう言って立ち上がり、スカートを払う。
「さ、練習。やるんでしょ」
「おい、今やるのかよ」
「今以外、いつやるの。帰ったらゲームしながら寝るでしょ、相沢は」
図星すぎて言い返せない。
俺が立ち上がる前に、ミオが半歩、近づいた。
パーソナルスペースに踏み込まれて、ちょっとだけ息が詰まる。
「……な、なんだよ」
「練習って言ったのは、そっち」
ミオは顔を上げ、俺の目を見る。
からかってもいない、けど無表情でもない、不思議な顔だ。
「ほら、“好きです。付き合ってください”」
「命令かよ……」
「練習相手なんだから、ちゃんとやりなよ。声小さかったら橘さん困るよ?」
妙に現実的なダメ出し。
だけど、心臓が跳ねてるのは、明日の本番じゃなく今だ。
俺は、少し息を吸って、言った。
「――好きです。付き合ってください」
ミオが一瞬、目をぱちっとさせる。
その反応が“練習”っぽくなかった。
「……ほんとに言うんだ」
「そりゃ言うだろ、練習なんだから」
「じゃあ返事も、するね」
ミオは、ふっと笑った。
それが“本番”の返事っぽい。
「私は――どうしよっかな」
「迷うなよ、そこ」
「だって私、橘さんじゃないよ?」
「そ、それは……練習だし」
「うん。でも、練習で迷われたら本番でも迷われそうじゃない?」
一個一個が、刺さる。
そして、妙に核心をついてくる。
俺は視線をそらす。
「……練習にも、向き不向きあるんだよ」
「じゃあ私、不向きだった?」
ほんの少しだけ、声が下がった。
それは“茶化し”でも“無関心”でもない。
胸がチクリとする。
「いや、そういう意味じゃなくて……」
「じゃあ、向いてるんだ?」
「……まあ、その……やりやすいし」
「やりやすい」
ミオはその言葉を転がすみたいに繰り返し、視線を空に戻した。
どんな意味で受け取ったかはわからない。
しばらく沈黙。
風が芝生を揺らす。
ミオが、ぽつり。
「さ、帰ろ。告白するんでしょ」
「今日、まだ……返事聞いてないけど」
「必要? 練習でしょ?」
「お、おう」
「本番で聞けばいいじゃん。だって本番が大事なんでしょ?」
一瞬、笑ったみたいな横顔。
ほんの一秒で消えた。
その歩幅は、俺より少しだけ速い。
追いつくと、ミオは言った。
「成功するといいね――相沢の恋」
その言い方が、なんか刺さる。
けれども、俺はうなずくしかなかった。
「……ああ。頑張る」
でも胸の奥では、別の音が鳴っていた。
なんで、練習なのに、あんな顔すんだよ。
なんで俺、あんなにドキッとしたんだよ。
ミオの話が仕草が
俺の背中を押すようで――
どこか、ちょっとだけ冷たい。
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あとがき
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告白練習相手の幼馴染の様子がおかしい? 長晴 @Hjip
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