第9章ー2 真なる偽
死神は輪廻の役割を理解し、生者から魂の回収に勤しんでそのカルマを輪廻の原動力としてきた。そんなデスリングはエンドの超越性に神の領分が無いことを悟る。
「なるほど?そちらは輪廻からは縛られていない外道に既に至っている存在なのですね。そして、そちらの鎖は肉体を持たないこちらのアストラル体を直接破壊することが出来る脅威そのものというわけですか。この世界にとってそちらが非常に危険であることを改めて理解しました。焚き上げなさい!遺され骨の焼香『クレメンズスモーク』!」
そう言ってデスリングは自身の周りに鬼火を従えて灰の煙を充満させて身を隠していき、指輪に手を置いて呪文を唱える。
「甦れ!私は大海の支配者!海皇の『ハーフタマティーニ』!」
すると、デスリングに波濤の大渦が流れ込んでハーフタマティーニの姿となり、同時に伴って召喚したトリアイナを構える。
「デスリングよ。アークの戦士に変身するとは好事家なことだ。」
エンドの嘲るような発言を前に、デスリングはハーフタマティーニの姿で口元に指を入れ召喚術を唱える。
「深淵のもの共よ、黄泉より来てください!恨めしき深淵行軍『トロールデプス・怨』!」
長い舌を出して魔法陣を発動させ、ウルズの泉から泥でできたマーフォークの軍団に霊魂が宿り、エンドに向かって軍を差し向ける。
「私は魂を召喚することで本質に極めて近い存在として顕現させることができます。死者を冒涜するようで心苦しいですが、そちらが相手であれば遠慮は無用です。物量で押し切らせていただきます!怨蛇が如く飲み込め!冥王『カースドヒュドラ・改』!」
ヒュ――――ッ!ドロドロドロドロ~~~~!
トリアイナを突き立て、猛毒を帯びた水の大蛇がいくつも動き出してマーフォークの亡霊軍団とともにエンドへ迫っていく。
「自壊せよ。μ『ヒート』。」
エンドは鎖をラッパのような形にして唱えると、ベルのような所から電磁波が発生し、カースドヒュドラが発熱して沸騰し段々と形を保てず地に落ちていく。エンドに迫っていたマーフォークの軍勢も干上がって土となって崩れ落ちていき、ウルズの泉は見る間に蒸発していく。ハーフタマティーニ姿のデスリングも熱波にあてられて泉から抜け出しながら、
「・・・甦れ!私は百獣の君主!獣君主の『レオニグラス』!」
デスリングは再度指輪に手を置いて呪文を唱えると、ハーフタマティーニの肉が裏返って膨んでいき段々とレオニグラスのキメラ姿になっていく。レオニグラスになったデスリングは翼を広げて空中へ飛び立つと、拳に殺気を帯びさせて連続で霊気弾を放つ。
「喰らいなさい!霊獣拳秘奥義『猛王窮奇殺破・改』!」
ウオオオオオオオオオッ!ザザザザザザ――――――ッ!
デスリングが発した霊獣の殺気を帯びた牙が豪雨のようにエンドに降り注いでいくが、
「Ω『トーチカ』。」
エンドは全身を覆う鎖でバリアーを作って守り、霊獣たちの牙は悉く阻まれて磨り減るようにして消失していく。それを見たデスリングは自身に亡者の遺灰を纏わせて霊気の魔獣となって牙と両手にケルベロスの霊気を宿して、トーチカを崩そうと食らいつく。
「引き摺り出しなさい!地獄の暴食『ケルベロスファング』!」
「侵せ。Η『ヘッジホッグ』。」
エンドはデスリングの死の牙に対して無数の棘が生え出す侵蝕の言霊によってデスリングを押し返していき、やがて死灰を砕いて弾き出す。
「出でよ!この手にありますは無尽の『如意金箍棒』!」
吹き飛ばされたデスリングはデスサイズを変形させた如意棒を手にしてエンドのトーチカを滅多打ちにしていく。
「突き崩しなさい!斉天の演武『鬼殺猿王乱打』!」
ズドドドドドドドン!
「突きつけよ。θ『ベクトル』。」
ズガガガガガガガッ!
エンドはトーチカを中心にして鎖をあらゆる角度で槍状に変化させて如意棒の打撃を打ち払っていき、
ズドンッ‼
その内の二本の槍がレオニグラスの翼を貫いて、両翼の二等分線上にさらに大きな槍が動けなくなったデスリングを串刺しにした。
「ゴホッ・・・。やはり難しいものですね。かくなる上は、対峙せよ!私は絶対者!超越者の『エンド』!」
デスリングは指輪に向かって唱えると、エンドのような姿となって顕現して自身に鎖を纏わせる。デスリングは大鎌を掲げてそれに鎖を巻き付けていき、やがて天を擦るほどにまで巨大な鎌を出現させていく。あまりの大きさにエンドは後退してそれを見上げる。
「デスリングよ。これほどの戦いを見せるとは見事である。」
「・・・私の偽装でもここまでやれるところを見れば、改めてそちらの埒外さが伺えます。だのに、そちらは過去などに何故それほど執心するのでしょう?Α『ハルパー』!」
ピピピピ――――ジャリリリリリッ!
デスリングは巨大鎌をエンドに振り下ろす。その片刃をチェンソーのように回転して大気が振動しユグドラシルの根がヒビ割れながら周りに衝撃が轟いていく。その場から大きく距離をとったエンドは懐から黄玉の宝玉を取り出す。
「・・・『日毛の黄玉』よ。ワタシに力を与えん。陰と陽の化身をわたしに顕現せしめよ。」
『日毛の黄玉』の輝きはエンドを包み、エンドの体は膨れ上がるが、それに伴って鎖が巻き付いていきピラミッド型になって浮かび上がる。ピラミッドの中心らしき部分に光り輝く大きな目が覗いて、その周りには放射状に影が渦巻いている。
「崩せ。λ『ディケイ』。」
キュロロロロロ!バアババババババ!
エンドが唱えた瞬間、エンドの全身がゲーミングカラーに変色して周りの空間が一時的に浮遊するような感覚があるとすぐに辺りは崩壊していった。ハルパーの衝撃とエンドの崩壊の言葉によってユグドラシルの根本は伽藍洞になってしまう。日毛の黄玉によって力を増したエンドによる崩壊の言葉は大気が震え、時空を引き裂いて銀河を圧縮するほどの波動でハルパーは崩れ去って元のデスサイズに戻っていき、その余波によってデスリングの変化も解かれてしまう。やがて、崩壊の振動が落ち着いて来る頃にはデスリングは丸くなった蜈蚣のようになって蹲りながらもエンドを睨みつけている。
「拘束せよ。ε『リミット』。」
エンドは鎖でデスリングの体を拘束すると、ピラミッドの大きな目の穴から白い手が伸びていきデスリングの左目に近付けていく。デスリングはかつて遥かなる時が廻る中で、現世にてある求道者から宵骨の翠玉を手に入れたことを思い出していく。その者は人望が厚く多くの人々の心の依代となって導いてきたが、とうとう彼の波乱に満ちた生涯は終わろうとしていく中で当時まだ名も無かった死神が死を待つ彼に近付き言った。
「お前の魂は冥界に向かうはずなのに、どうしてその魂は輪廻に入ろうとしないのか?」
死を待つだけの求道者は死神に言った。
「どんな魂も等しく肉体を離れますが、その身に宿った命を尊ぶことに不安を抱える者は決して少なくありません。そちらがこの魂を此の世から連れ出したとしても、私が歩んできた道が人々の支えになるのであれば私はこの命をその人達のために示してあげたいのです。」
「それは不可能だ!輪廻はどんな魂をも引き寄せ、その業により廻っている。お前の業は幽世においても計り知れないからこそ外道にて持て余しているに過ぎない。」
求道者は死神に咎められるもその目は全く希望を捨てていなかった。
「それならばせめて、そちらが私の目になって彼らを見守ってあげてください。私がこの世で悟ったようにきっと、そちらも目覚めることでしょう。」
宵骨の翠玉を差し出すその者に死神は彼を哀れに思って言った。
「死神は厳格で絶対であり魂を司る。人は私を恐れてこの目を厭う!お前は人への情けより己の心配をするがいい。」
死を恐れぬその求道者は首を横に振った。
「私は人々に敬われ、私も人々を敬いました。それはそちらに対しても同じなのです。たまにでもよろしいので私のことを思い出してください。」
彼が死んだ後、この世の無常に目覚めた死神は後にデスリングと言われることとなる。
「もはや、・・・これまでのようです。せめて多くの魂が輪廻にて迷わぬようにこの世の道標となる言霊を・・・。仏の涅槃『諸行無常』!」
デスリングの左目から『宵骨の翠玉』がエンドによって刳り抜かれると、デスリングはガラガラと骨が崩れて小さな欠片となって地に埋もれていくが、最後の言霊は暫くユグドラシルだったものの洞に響いていた。
エンドはクレイドルに戻され、デスリングのクレイドルと結合する。
「7回戦、勝者は『超越者』エンド!おめでとうございます!『宵骨の翠玉』と『捨因果の指輪』を戦利品としてお受け取りください。もちろん、エリクサーも用意しております。」
ピラミッドのような姿でいるエンドは大きな目から白い手を生やして、被っていた仮面を外してエリクサーを飲み干し元に戻るが、その顔は美しくも大半がメタリックな物を張り付かせている。その様を見たクレイドルのモノ共は固唾を飲んで見守ることしかしなかった。
「さあ!制裁の時間だ!敗者は死神族のデスリング!その一族郎党は滅んでもらいましょう!」
スクリーンでは、現世と幽世との境目が罅割れ、幽世の魂の暴走を抑えるために死神達は慌てて修復しようと裂け目に集合していく様子が見える。しかし、全てを塞ぐことが出来ずにそのまま境目の一部となった死神達は次々と沈黙していく。そして、幽世に集められた大いなるアストラル体は世の境目に拡がっていた裂け目から漏れ出して、アークの中へと吸い込まれていくのだった。
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