第7章ー1 ヴァルハラ宮殿

「第5回戦!高貴なる天の使いとして戦場を駆け巡るヴァルキリー!神が示す光の導きは勝利への導きとする天使の師団長!天使族、『戦天使』マリエル!」

 純白のランスを右手にして白銀のプレートアーマーと腰に剣を携え、左手にはブレスレットが輝き、頭をサーリットで覆った煌めく天使の白い羽を持つ〈天使長〉が頷く。

「対するは、全てが謎に包まれた異質の存在!ただ言えることは自らを絶対者と名乗る前代未聞の神!神族、『超越者』エンド!」

 こちらは黒いヴェールと白いローブで頭から全身を包んで隙間から鎖が幾本か垂れ下がり、点滅する7つの点を連ねた仮面によって辛うじて前後が分かる位の存在が立っている。

「ルーレットが示す戦場は・・・ヴァルハラ宮殿!御二方にご武運を!レディファイト!」


 大地の中心に聳える高台から虹の橋が架かった砦内にある五百を超える扉と槍の壁に楯の屋根でできた宮殿の中にある黄金に囲まれた闘技場に、後光が輝く天使と特徴が無い不気味な存在が降り立つ。お互いが向き合ってから暫く沈黙が流れるが、やがてマリエルが兜のバイザーを上げ、眩い程の美しい女性のような面立ちを見せて問いかける。

「『超越者』エンドよ!相まみえることが出来て光栄です!しかし、そなたは誠に神であるか?そうであるとすれば、何故主と某とが戦いに身を置かねばならないのでしょうか?」

 マリエルの問いかけにエンドは被っている仮面の7つの点を光らせながら機械音のような声で発言する。

「・・・『戦天使』マリエルよ。オマエは既に分かっておろう。神を疑うべきではないと。」

 神は不可知の力を有する人々の崇敬の対象であり、唯一絶対の存在として全ての頂に坐すといわれている。そして、天使とは神の使いとして多くの聖なる伝承で人間に神の意向を伝令したり、人間の窮地を救ったり、手助けしたりする神秘的な存在で様々な役目や姿がある。マリエルは悪魔と戦う天使の軍団を率いる天使長であり、圧倒的な武威と様々な神器を有している。マリエルはエンドの異様な迫力にも毅然として向き直り、首を垂れて弁明する。

「無論、神は至上の御方であり、某の背信など有り得ません。されど、だからこそ神に刃を向けなければならないことが耐え難いほどに苦しいのです。」

「おおっと⁉早速マリエルが戦意喪失か?マリエルの武威は高位の悪魔ですら恐れ戦くといわれるほど!しかし神に歯向かうことは自決を思案するほど天使の沽券に関わる事態!大量のマナを内包する魔道具や神器の所有者は魂の契約を交わして力を解放します!そのためそれらによる自傷や自害は魔法の発動以外では行えません!どうする?マリエル!」

 アークにいるモーヴィスが神と戦うしかないマリエルの苦悩を説明していると、エンドが一歩前に出て言い放つ。

「マリエルよ。これは定めなのだ。この場においてワタシのためにオマエの闘う意思と刃を向けることを許そう。オマエは許されたのだ。」

 その言葉にマリエルは顔を上げて今にも泣き出さんほどの恍惚の笑みを浮かべる。

「もったいなきお言葉!某は信じます。『戦天使』マリエル、参る!神に然り『アーメン』!」

 マリエルはバイザーを下ろして言葉を口にすると、神通力を満たす詞によって鎧が燦然と輝いて自身により強い力を付与する。

「某の全てを受け止めてください!高雅なる驀進『駆麟金猪突』!」

 その掛け声とともにマリエルは手にしている金色に光るランスのゲイ・ボルグを構え、エンドに猛進して得物を突き出す。エンドは回転して深い紫色の鎖をぶん回し、槍を破壊しようとするが、同時にマリエルがランスを蹴り飛ばす。

「某の至高の一投!穿て!『ゲイ・ボルグ』!」

 蹴飛ばされた槍は三十本ほどの分裂した矢となって降り注ぎ、さらに数多の棘のように炸裂してエンドの全身に突き刺さっていく。エンドのローブはズタボロになってそこからは光り輝く血が滴り落ちていく。

「電光石火の会心の一撃!分裂する槍の神器ゲイ・ボルグによってあっという間にエンドの全身が貫かれてハチの巣だ!これはもう決まってしまったか⁉」

 モーヴィスがスクリーン越しからは捉えきれないマリエルの素早い投擲に目を丸くしていると、エンドはゆっくりと呪文を放った。

「・・・τ『トランジエント』。」

エンドが呪文を唱えると、鎖の束がエンドを包み、数秒も経たない内に鎖が解かれて復活したエンドが立ちはだかっていた。マリエルは驚愕の表情を浮かべる。

「超回復の御業⁉ならば・・・威光を示せ!『クルージーン』!」

 マリエルはそれを見るとすぐに、腰から光剣を抜いて殺陣を繰り出す。

「輝ける光剣の閃き『陽炎鳳凰舞』!」

「転位せよ。σ『シフト』。」

 百戦錬磨のマリエルが目にも留まらぬ剣捌きで迫るも、エンドの鎖が自動的にエンドを防御しながら鎖の先から先へとエンドが瞬間移動することでマリエルの見事な剣筋は空を切っていく。あまりの激しさにモーヴィスは感嘆の声を上げる。

「マリエルが今度は剣の神器であるクルージーン・カザド・ヒャンを振り回してエンドに果敢に挑むも、またもや捉えどころのないエンドの不可解な魔法による技で易々と躱されていきます!激しい攻防の末に決着はつくのでしょうか⁉」

 二人の戦闘が空気を震わせて勢いを増していくと、エンドは隙を見てマリエルの後方に出現して呪文を口にする。

「縒り合わせよ。『輪廻転生の鎖』。ψ『クーロン』。」

 エンドはマリエルの背後から“世の進退を定める”『輪廻転生の鎖』を束にして強力な磁場を巻き込んだ三又に伸びた棍棒を創り出し、それをマリエルに向けうねりを上げて振り下ろす。マリエルは即座に反応して振り被るも超振動している棍棒の違和感に気付いて咄嗟に躱す態勢に切り替えて棍棒を剣で払おうとするが、

バチチビキビキパラパラッ・・・

 棍棒に剣がわずかに触れた瞬間に剣はそこから一気に崩れ落ちていった。マリエルはすぐに後ろへ飛んで距離を取ると、光輪から弓矢を召喚して射掛ける。

「射よ!『生弓矢』!虹が架かる光の乱射『レインボースプリー』!」

 マリエルの虹色に輝きだした弓から矢が虹を描きながら放たれると、更に手元から次々に新たに矢が出現していってそれを休みなくエンドに射掛けていく。エンドは破壊の棍棒を両手で掴んで二つに分けると、数本の鎖の束で円を描くように振り回す。

「巡れ。π『サークル』。」

 鎖がエンドの前で円を描いて回転して盾のようになっていき、マリエルの放たれた矢は全て叩き落される。アークのスクリーンも戦闘の激しさと眩しさが映る。

「マリエルの次なる神器は生弓矢だ!音速を超える射撃で迎え撃つもエンドは自在に輪廻転生の鎖を操り防いでいきます!しかしお二人の戦いは少々眩しすぎますね~!」

 アークの中でもモーヴィスが茶化すような文句を漏らしていた。やがて、射かけてきた矢に効果が無いと見たマリエルは静かに弓を下ろす。

「まさに神の御業!克槍の『ゲイ・ボルグ』、剛光剣の『クルージーン・カザド・ヒャン』、射根の『生弓矢』。何れも主には及びはせなんだ。」

 マリエルはエンドを称賛するが、エンドは更なる真価を示すように促す。

「マリエルよ。オマエの武威を示すのだ。ワタシに誉を見せよ。」

「心得ました。某の持つ光の五剣をご覧にいれましょう。出でよ!『生大刀』、『騒速剣』、『顕明連』、『大通連』、『小通連』!」

 マリエルは左手を宙に上げると、5つの光輪が出現して強い神通力を持った5つの光剣が召喚されてマリエルの神通力によって傍らで浮遊して空中に留まっていく。マリエルは左手のブレスレットにはめ込んだ黄色い宝石に右手を置く。

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