極悪令嬢が異世界からやって来たので喜んで魔王を殺しに行きますわ
和泉歌夜(いづみかや)
序章 最悪の異世界召喚
「何ですの。このボロ部屋は。わたくしの馬小屋の方がマシですわ」
召喚して早々、ワッフルみたいな形の髪の毛の娘はいきなり超失礼な事を言ってきた。
私ーーマルガリータは戸惑っていた。てっきりたくましい勇者が来ると思っていたからだ。
「あ、あなたは......誰なの?」
「先に名を名乗りなさい。召し使い」
め、召し使い?! 一応一国のお姫様なんですけど。
「えーと、ザマテール王国の王女マルガリータです」
「あら、王女様? あまりにも貧相な身なりをしていたから最下級のメイドかと思いましたわ」
えぇ、どの格好を見てそう言えるの。確かに私に比べたらドレスの装飾が派手......いや、派手すぎだろ。何個宝石を散りばめているんだ。
うわぁ、よりにもよって何でこんな奴が異世界から召喚されたの。
*
さかのぼること数時間前。ザマテール王国の
「あぁ、なんてこった。勇者がいない」
そう。我が国では魔王を倒しに行く勇者がいなかった。
その要因は二つ。一つは魔王が強すぎること。これは仕方ない。魔王の恐ろしさは度重なる魔王軍の襲撃で嫌と言うほど分かった。
もう一つはアッタラー国王の采配ミスだ。
国王は極度の心配性で勇者を見送ってから一週間経たないうちに『もしかして殺されたのでは?』と心配になり、また一人を勇者と指名して向かわせる。
それをここ一年間ずっと繰り返しているうちに王国内に若者(子供を除いて)がほとんどいなくなってしまった。
若い女性は国家存続のために必要な人材なので危険な旅路に向かわせる訳にはいかず、老人は道中で昇天する可能性がある。
なので、アッタラー国王は頭を抱えているのだ。
「あぁ、どうしよう......やべぇ。勇者いねぇ」
「お父様、そんなに心配にならなくてもいずれ誰かの勇者が魔王を倒してくださいますよ。絶対に」
私は強めにそう言うが、国王は「いや、絶対に道中で殺されている。便りがないのはそういうのが原因だ」と揺らぎなかった。
「お父様、これ以上若者を国外に出すと人口不足や働き手不足で国が窮地に陥ってしまいます」
「いやー、でも、人類の平和を救った国として注目されるし......」
あぁ、お父様がどうして国王になれたのかが不思議ですわ。もしお母様が生きていたらこんな事にはならなかったのに。
国王は「よし、ならばお前が行け」と言った。
......ん? 今、なんて?
「お父様、何かの聞き間違えかと存じますが、えーと......私を......魔王に?」
「そうだ。お前が倒しに行ってこい」
うわぁ、最低だ。こいつ。人手がいないからって私を勇者に指名する親がどこにいるんだ。ここにいたわ。
「お、お父様。私は姫ですよ? その、魔王討伐どころかスライムですら倒せないんですよ」
「まぁ、でも、皆最初はそうだろう。徐々に経験値を積めばいずれは倒せる」
駄目だ。まったく話を聞いてくてない。どうしよう。私、料理以外何もして来なかったんだけど。
「お、お父様! 私に時間をください! 他に方法がないか探して参ります!」
私はそう言って逃げるように謁見の間から出ていった。魔王を倒す方法を図書室で探していた時に『異世界から勇者を召喚する』という本を見つけた。
そして、使われなくなった塔で実行して......今に至る。
*
「えーと、あなたの名前はなんですか?」
私が尋ねると、ワッフルの髪の娘はフンッと鼻を鳴らした。
「デスメラールよ。ワルマール公爵の娘よ」
ワルマール公爵......聞いたことないけど、たぶん凄い地位なんだろうな。
「えーと、デスメラールさん」
「『様』をつけなさい。マルガリータ」
「あ、は、はい......デスメラール様」
あぁ、キャンセルできるのなら一刻も速く彼女を異世界に戻したい。だけど、それは出来ない。『一度召喚した相手を元の世界に帰す事はできない』と書かれていたからだ。
「デスメラール様。あなたをお呼びしたのは魔王を倒して欲しいんです」
「マオウ? マオウってなに?」
「えーと、魔物は分かりますか?」
「知らない」
うわー、そこからか。私は絵やジェスチャーを駆使してこの世界の現状を話した。
話を終えると、デスメラールはフンッと腕を組んだ。
「言っておくけど、わたくし、怪物退治はやるつもりはありませんわ」
私は心の中で『だろうな』と思った。彼女の事だから、過酷な事は大嫌いなのは間違いない。
でも、何とか説得させるしかない。
「では、デスメラール様はどうするんですか?」
「そうね......久しぶりにパーティーでも開こうかしら」
デスメラールはニヤッと笑うと私を見た。私は信じられないほど嫌な予感がした。
極悪令嬢が異世界からやって来たので喜んで魔王を殺しに行きますわ 和泉歌夜(いづみかや) @mayonakanouta
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