17:42

黒崎

【速報】

おそらく七月盆の日でしょうか。元気な木の葉とミンミンゼミの鳴き声、少し暑いくらいの気温……私は、森の中を歩いていました。歩いても歩いても、出口は見えなかったのです。あまりに疲れて、途中から下を向いてばかりいました。下を向いてから暫くして顔を上げると、私はあるものを見つけました。


それは、鳥居です。木の葉がとても青いのもあって、よく目立ちました。鳥居をくぐろうと思い、真ん中を歩きました。中に入ると、やはりお宮がありました。ひっそり、こじんまりしながらも、どこか厳かな雰囲気がありました。


真ん中を歩いていくと、年老いた男性が、おそらく宮司さんが、祝詞を唱えているのが見えました。


しばらく周りを見渡していると、浄衣を着た男性がいることに気づきました。彼らは四人いました。そして、巫女さんたちも彼らの周りを囲むようにして六人おりました。男たちがどこからかわかりませんが、楽器を持ち寄り、その音に合わせて巫女さんたちは舞い始めました。品のある、素晴らしい舞でした。これはなんの神事なのかわかりませんが、少し湿ったその天候が良い雰囲気にしてくれました。


しかしその最中、邪魔が入りました。


何かが落ちてきたのです。


それは天使だと直感しました。よくみると、首から上がなく、羽も折れているようでした。非常に気味が悪くなりました。しかし、不思議と吐き気はしませんでした。ゆっくり舞い降りると言うよりも「ドスン」と音を立てて落ちてきました。それは道の脇に落ちました。


音に気づいた一人の男が演奏を取りやめ、天使の下へと向かいました。不思議なことに、それに他の男らも、一人の男についていくのです。女らは音がなくなったにも関わらず、依然として、美しい舞を続けました。暫くすると、彼らは、天使を殴り、蹴り始めました。


私も、邪魔をされたのが嫌だったのでしょうか。


天使の元へ向かい、道の真ん中から外れて、天使の下へ行き、一発の拳を振り下ろしました。


何故、直接手を下したのでしょうか。ただ舞を壊されたくなかったのでしょうか。私には、わかりませんでした。


途端、私は眠っていること、これは夢だと言うことに気付いたのです。その勢いで目を覚ますと、そこは祖父母の家でした。


そういえば、私は家族と母方の祖父母の家に泊まっていました。どうやら、お茶の間で眠ってしまっていたみたいです。今は何時なのでしょうか、時刻を確認しようと思って、テレビをつけました。そして、画面が写したのは17:42という時刻と、渓流の映像、そして速報のテロップのみでした。


【緊急速報】天使の翼、折れる。


ここもまた夢なのでしょうか、そう疑ったとき、茶の間に母が入ってきました。なのでそんな考えも消えてしまいました。テレビはいつの間にか夕方のワイドショー番組に変わっていました。

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17:42 黒崎 @Sakuraba_N

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