異世界に転生した成功者、魔法の世界で魔力を持たないが努力で成功する。
雫tv
第1話序章 合理主義者は異世界に落ちる
鈴木龍太の人生は、論理と数字でできていた。
東大を卒業後、起業。
技術力と経営判断を武器に会社を急成長させ、ついには国から兵器開発を依頼されるほどの大企業にまで育て上げた。
娯楽は最小限。観るアニメは推理ものだけ。感情よりも事実、直感よりも証拠。それが鈴木龍太という人間だった。
――その日も、いつも通りの帰り道だった。
交差点を渡ろうとした瞬間、視界が白く弾け、次に意識を取り戻したとき、彼は硬い地面の上に倒れていた。
空は不自然なほど青く、周囲には見たこともない石造りの建物。
何より――
「……電線が、ない?」
龍太はゆっくりと起き上がり、周囲を観察する。
機械音がない。エンジン音も、電子機器の光も存在しない。
代わりに、人々の手のひらには淡く光る“何か”があった。
「魔法……?」
信じがたい言葉が、理性をすり抜けて口をついた。
魔法の世界と“欠陥”
この世界では、魔法が文明の中心だった。
火を起こすのも、水を引くのも、建物を動かすのも魔法。
だが――例外が存在する。
魔力を持たずに生まれる者。
彼らは「欠陥品」「空(から)の者」と呼ばれ、差別され、追いやられ、時には奴隷として売られる。
魔法がすべての社会において、魔力を持たないことは“生きる資格がない”に等しかった。
そんな者たちが、逃げ延び、集まり、作った国がある。
泉帝国(いずみていこく)
魔力を持たない者たちの国。
魔法に依存しない思想と、規律と、工夫で成り立つ国家。
この世界における「日本的立場」――
技術は未熟、資源は少ない、だが知恵と組織力で生き延びる国。
合理主義者の選択
鈴木龍太は、泉帝国に辿り着いた。
最初は理解できなかった。
なぜ魔法があるのに、歯車を回す?
なぜ呪文があるのに、レバーを引く?
だが彼は気づく。
「……魔法が万能なら、論理は不要なはずだ。
でも、この国は論理で動いている」
魔力を持たない者たちは、
再現性を重視し、
失敗率を計算し、
属人性を排除しようとしていた。
それは、かつて龍太が企業でやってきたこと、そのものだった。
「この国は……伸びる」
その瞬間、彼の中で“経営者”が目を覚ます。
やがて泉帝国は、周囲の魔法国家から警戒され、圧迫され、滅亡の危機に立たされる。
そのとき、人々は知ることになる。
魔法のない世界で、
機械と戦略と推理で戦争をひっくり返す男の存在を。
――鈴木龍太。
合理主義者にして、異世界最大の異物。
そして彼は、この世界を“理解”することで、
泉帝国を救うことになる。
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