カラスを殺さず生きていく

@Sakurarose0928

カラスを殺さず生きていく

殺せば会えるの?

「カラスを殺すやつ絶対許せない。殺したやつは殺しに行きたいくらいだ」

カラス色の瞳の彼が言った。

何度想像でカラスを殺しただろう、どんな理由であれ彼に会えるなら、彼に殺されるなら、本望だ。

皮肉なことに現実カラスを殺せるような度胸は私にない。

だから、想像でだけ。私は虚な瞳でカラスを毒殺する。だって、そうやって殺して欲しいんだもん。彼には一番綺麗な姿を見て欲しいから。


「介護士の資格があれば一人でも生きていけるから。どうせあんたは結婚できないから。」25年間、母から浴び続けた言葉。容姿は下の下、男になんて頼る気なんてさらさらなかった。むしろ恋人欲しいとか喚く女を見下していた。


彼と会って私は変わった。

当たり前のことをしたら、そんなことまでしてくれるの?って目を丸くして感謝された。

ディナー予約してくれたり、ドアを開けてエスコートしてくれた。まるでお姫様!「お母さんと会わせたい!絶対話が盛り上がると思う。」まっすぐな瞳で言ってくれた。

今まで男を勘違いさせてきたでしょ?なんてそんな的外れな、変な質問すらも可愛いと思えた。

嘘をつかれても許せた。

お互いちょうど恋人と別れたタイミングに会えて良かったねって見つめ合ったよね。

でも時々どこを見てたの?


忽然と消えた。

何も言わずに彼は逃げた。


手当たり次第に男と会った。満たされない。

並んで食べたお寿司、触れる手の温もり、彼の香水。引き摺り込まれる。

幸せそうな恋人見るたびになんで私の隣にはいないの?って。


今まで馬鹿にしていた失恋ソング、途中から歌えなくなるの。彼にも聴かせてやりたい。私以上の人はいなかった、って。


でもね

本当はこんなことを言いたい訳じゃないの。

本当は、ありがとうもごめんねも伝えきれなかった。

それを背負って生きていく。

カラスを殺さず生きていく。


目の前の車椅子に乗ったカラス色の瞳をした利用者が不明瞭な言葉を叫んでいる。

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