最後に現れた――が印象的でした。
遺骨すら戻らなかった父の気配が、ファンタジー感はなくとも、ほんの少しだけ形を持ったように感じられました。
白いごはんをお腹いっぱい食べたい、という根源的な願いがずっと作品の中心にあるのも良かったです。
最初は子どもらしい素朴な願いなのに、食糧事情が悪くなり、父が戦地へ行き、戦争が終わっても白いごはんは簡単に戻らない。
その変化が、戦争を理解しきれない少年の目線で描かれているので、余計に胸に残りました。
また、タヌキへの見方が少しずつ変わっていくところも印象的でした。
食べ物を分けていた相手を、飢えの中で一瞬「食べられるかもしれない」と見てしまう。その一瞬に、戦争や飢えが人の心の余裕を削っていく怖さが出ていたと思います。
個人的な話となりますが、私の亡くなった祖母も理屈抜きで戦争の恐ろしさを終始語っていたので、それを文芸という形で落とし込んでいたのはリアリティがあり、私も含めて読む人を惹きつける作品です。
派手な救いがある話ではありませんが、稲荷山という場所に、食べ物の記憶、父の記憶、戦争の記憶が静かに残っていくような作品でした。