第3話 ジョーイとルナの門出を祝うパーリー当日ですわ!
ジョーイとルナの門出を祝うパーリー当日ですわ!
わたくしは夜会用のドレスに身を包み、本邸の大広間を見渡します。
招待しているのはわたくしとジョーイの両親、そして親戚や友人。いわゆる結婚式を執り行う場合に招待するであろう人たちです。
もう二度とこの顔ぶれで集まることはない……結婚式で呼ぶことがないのが申し訳ないですわね。
「……本当にやるんですか、お嬢。ただの立食パーティーで終わらせるなら今のうちですよ」
そばに控えていたグレルがこっそりと言います。
「グレル。わたくしがなんのために今日まで準備してきたと思っているのです。ジョーイとルナが結ばれるためにはこうするしかないのですわ」
「……どんな事情であれ、この場で婚約を解消すれば、お嬢はこれから先『使用人に婚約者を奪われた令嬢』という不名誉な話がついて回ることになります。噂は正しい形で広まるとは限りません。噂に尾ひれがついて、次の婚約話が来なくなってしまうかもしれません。お嬢のためにならないのでは…………」
考えうる不幸な展開をつらつらとあげていくグレル。
だからわたくしはグレルを見上げて言葉を返します。
「グレル。わたくし、貴族のひとり娘に生まれた宿命として、お父様が連れてきた殿方と結婚するものだと思って生きてきました。グレルだって男爵家の者ですから、いずれはどこかの令嬢を妻に迎えることになるでしょう?」
「僕は、お嬢がまともな婿を迎えて良き当主になるのを見届けるまでは……お嬢よりも先に結婚するつもりはありません」
「グレル……」
ばあやに聞いたことがあります。グレルは縁談が来てもすべて断ってしまうって。
わたくしが結婚するまで結婚するつもりがないのなら、この先わたくしに縁談が来なかったらグレルもずっと未婚のままになってしまいます。
それは申し訳ないです。
「わたくしに気を遣わずともよいのです。グレルはグレルの望む結婚をしてください」
「……そのような顔をなさらないでください。どんな結果になっても、僕はお嬢についていきましょう。これまでだってそうしてきたんですから」
「ありがとう」
わたくしは集まってくださった人たちの前に進み出ます。
がんばりましょう。これでジョーイたちは思うままに生きることができるのですから。
「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。本日は特別な記念日ですので、ぜひ楽しんでいってください」
ジョーイは困惑した表情でわたくしを見ています。
「特別? シンシア。今日はとくに誰の誕生日でもないだろう」
「いいえ特別ですわ。ジョーイとルナの門出を祝うために開いたんです」
「へは!? え? シ、シシシンシア? な、な、なっ…………なんで、ここでルナの名前をっ!?」
ジョーイの顔色が一気に変わりました。
嬉しくて言葉にならないのですね。わかります。わたくしは招待客の皆様に向き直りました。
「わたくしは、ジョーイと彼の新しいパートナー、ルナを祝うために、このパーリーを開きました! わたくしとジョーイは婚約解消することになりますわ」
会場は一瞬、静まり返った後、ざわめきが広がっていきます。
ジョーイは口をパクパクしたまま。給仕をしていたルナも、硬直しています。
「ジョーイ、ルナ、あなた達は先日この屋敷の東屋で抱き合い口づけを交わしていたではありませんか。愛し合う二人を引き裂くなんてわたくしにはできません。潔く身を引きますわ! そして二人の門出を心からお祝いしたいのです。二人を応援しています。わたくしの気持ちを、選択を、皆さまに知っておいてほしいのです」
大きく息を吸い込んで、集まった人々を見回して、わたくしは微笑みます。
ハッピーエンドですわね! と思っておりましたのに、ジョーイのお父様、子爵様が怖い顔でジョーイの前に歩み出ていきます。
「恋人、だと!? ジョーイ! 何を考えているんだお前は! シンシア嬢という婚約者がありながら、他の女性と恋仲になるなど! どれほどシンシア嬢が傷つくかわかっているのか!?」
子爵様はつばが飛ぶ勢いで怒鳴り、ジョーイの胸ぐらを掴みます。
ジョーイが殴られてしまう前に止めます。
「どうか怒りをお沈めてください、子爵様。わたくしは傷ついておりません。ジョーイがルナと一緒に生きることを望んでいるなら、わたくしはその気持ちを後押ししたい。だって、身分違いの恋が実るなんて素敵ではありませんか。試練を乗り越えて絆が深くなる。ロマンス小説が現実になったようで素敵ですもの」
「そのように強がらなくてもよいのですぞ、シンシア嬢。こんな、こんな形で裏切られて、傷つかないわけがないだろう」
「心配無用でしてよ、子爵様。わたくしこう見えても逞しいですから。怒るのではなく、息子が真実の愛で結ばれることを祝福してくださいませ」
わたくしは手が痛くなるくらいの拍手をします。グレルがかるくため息をついたあと、ぱちぱちと小さく拍手をします。
皆さまは互いの顔を見合わせ、ささやきあっています。
きっと身分違いの恋が実って素敵、と思ってくださっているのね。
ジョーイとルナは身を寄せ合い、涙を浮かべています。
「……シンシアお嬢様……。私、本当にジョーイ様と生きていいのですか?」
「もちろんでしてよ。わたくし、ジョーイとルナに幸せになってほしいですもの。わたくし別にジョーイに好意を寄せていたわけでもありませんし、なんの気も遣わなくていいんですよ」
「お嬢様……」
ジョーイは泣きだしてしまったルナの涙をハンカチでぬぐってあげて、わたくしに向き合います。
「ありがとう、シンシア。これで俺は本当に愛するルナと結ばれるんだな!」
「ありがとうございます、シンシア様。この御恩、一生忘れません」
二人が手を取り合います。
「ルナ。君がいてくれるなら俺は他に何もいらない。二人で生きていこう!」
「ええ、ジョーイ様。私もあなたがいてくれるなら何も怖くありません」
晴れやかな笑顔になって広間の外へと走り出しました。
これでみんな幸せですわね。愛し合う二人が結ばれて、二人はいつまでも幸せに暮らしました! ロマンス小説ならそうなりますもの!
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