シンシアは今日もから回る! 〜婚約者に真実の愛で結ばれた恋人がいたので、わたくしは身を引いて二人の門出を祝うパーティーを開きました。〜
ちはやれいめい
第1話 わたくしは縁結びの天使になりますわ!
「ルナ。俺が本当に愛しているのは君だ。でも、親が決めた婚約から逃れられない。俺は、俺はっ! どうしたらいいんだ……っ!!」
「ジョーイ様。そのお気持ちだけで、ルナは幸せでございます。こんなことをしてはいけないのは、私もわかっています。あなたはルナお嬢様の………」
「真実愛する君のためなら! 俺はどんな苦行でも乗り越えてみせるさ!」
「ジョーイ様っ」
しかと抱擁して十秒ほど見つめ合い、重なり合う二つの人影。
(うっキャーーーーー!! ロマンス小説みたいですわぁーーーー!! チッスですわぁ!!!!!! 秘密の恋人たちって本当にこういうことするんですのね! 勉強になりますわぁ!!!!)
ごきげんよう。
わたくしシンシア・タイラーと申します。
オーキナ国に所属するタイラー伯爵家のひとり娘でございます。
そしてここはタイラー家の本邸敷地内にあるバラ園。
そのバラ園で、我が家のメイド、ルナが恋人らしき殿方とあっつぅいチッスを交わす現場を目撃してしまいましてよ!
「はぁー。ヨダレが止まりませんわ。身分違いの恋って本当にあるんですのね。ロマンス小説ではよく聞くけれど、現実に、身近であるとは思いませんでした。これを見ながらミートパイ三つはいけますわ。ね、グレルもそう思いませんこと?」
「何を喜んでいるんですか。僕の目がどうにかなったのでないかぎり、ルナと睦まじくしているあれは、あなたの婚約者のジョーイ・ボインスキーじゃないですか!!」
グレルが声をひそめつつ、早口で言い募ります。
こっそり見ていることをルナたちにバレてしまったら大変なので、グレルも膝をつき、バラの茂みの後ろに長身を小さく丸めています。
「ええ、わかっていましてよ、グレル。わたくし、お医者様に褒められるくらい視力が良いですもの」
「婚約者が浮気しているんですよ!? 泣くか怒るかするところですよ!!」
「怒っているのはグレルではありませんか。眉間のシワが渓谷のようでしてよ?」
グレルはわたくしの乳兄弟。
物心ついた頃から心配性で、カタブツ。当事者のわたくしよりもよほど当事者らしい反応をしています。
「わたくしのお父様と、ジョーイのお父上であるボインスキー子爵は旧友。お互いの子どもが結婚したら嬉しいなと、お父様たちが盛り上がって決まった婚約。わたくしの意思で選んだ婚約ではありません。ジョーイもお父様たちの手前、私に仕方なく会いに来ていたと思います。悲しむ要素も怒る要素も見当たりません」
「だとしても。お嬢がいるのに他の女性に手を出していい理由になりません。どうしてもルナがいいというのなら、まず正式に婚約解消してから迎えに行くべきでしょう」
うーん。かたいですわ。ガッチガチゴリゴリの石頭ですわ。
グレルはロマンス小説みたいな身分差恋愛反対派ですのね。
わたくしも声を小さくしたまま答えます。
「ジョーイにはあんなに想い合う恋人がいると知った上でジョーイとこのまま結婚するなんて、できませんわ。これではわたくし、人々の間で流行しているロマンス小説の【悪役令嬢】じゃありません? 想い合う恋人たちを引き裂く悪女なんて、わたくしの柄ではありません。どうせなるなら、縁結びの天使がいいですわ! そうです! パーリーしましょう! わたくしは自ら望んで身を引きくと大勢の前で発表するのです。そうすればジョーイとルナは晴れて結ばれます。我ながらブラボーなアイディアですわー!」
本来なら結ばれるはずのなかった二人が身分違いの恋を実らせる瞬間……想像するだけで心躍りますわ。
「……………………お嬢に普通の反応を求めた僕が間違ってました」
降参のポーズを取るグレル。
「とにかく、こうしてはいられませんわ。パーリィの招待状を書きませんと。グレル、手伝ってくださいませ。お父様とお母様に言ってはいけませんよ。サプライズの意味がなくなってしまいますわ」
「また僕を共犯にするつもりですか」
「なんです、グレル。共犯だなんて、まるでわたくしが悪事を企てているみたいではありませんか」
「あ、いえ、なんでもないです。はい」
なんだかグレルが遠い目をしていますわ。目が虚ろですし、疲れているのですね。
✼••┈┈••✼
全四話、本日中に投稿します。
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