1.出来損ないの治癒師
「こら!クーラ・ホロス!お前は本当に!なんでそんなことも出来ないんだ!成績は悪い、他者とのコミュニケーションも苦手!お前のような者がホロス家の人間とは、甚だ不愉快だ!」
「も、申し訳ありません」
「謝って済む問題じゃないだろう!お前はもう3年生。このままじゃ、卒業時に低位治癒師の称号も授けることすらできない!」
いつものように担任の教師に怒鳴られる僕。
周囲の生徒からは、クスクスと笑い声が聞こえる。
僕は何とも情けなくて、そっと俯いた。
ホロス治癒師養成学校。
ここは僕の実家が運営する、治癒師養成のための3年制の専門学校である。
国でただ1つのこの学校には、あらゆる地方から生徒たちが集まってきている。
「ったく、お前の兄であるソーテリア・ホロスは、王族付きの治癒師なんだぞ。一体、兄弟でどうしてこうも差が出るんだ」
「…ごめんなさい、叔父さん」
「まったくだ。我がホロス家の恥さらしめ。…さて、授業を始めるぞ!」
担任の教師…僕の実の叔父は、こちらを強く睨みつけた後に、教室中に向けて大きくそう言い放った。
「…はあ、あと1年もつだろうか。僕の心が」
その日の放課後、僕は校舎の裏で大きなため息を吐いていた。
深く濃い息。
まるで地の底から湧き出たようだと、勘違いする程である。
「僕は治癒魔法が苦手という、治癒師にあるまじき生徒だ。しかも、名門ホロス家出身なくせに。そりゃ叔父さ…先生も怒るよ」
冷たい岩の上にそっと腰掛ける。
春先の岩は底冷えする程、とても冷たい。
「低位治癒師にもなれなかったら、僕は将来的にどうやって生きていけばいいんだろう。街で何か仕事を探す?それこそ煙突掃除でもする?でも体力に自信があるわけでもないのに。
…はあっ、僕って本当に何もできない人間なんだ」
そっと空を見上げれば、高い場所で大きな鳥が羽ばたいていた。
そもそも治癒師とは、人々の病気やケガを魔法で治す専門職である。
低位治癒師、中位治癒師、高位治癒師の3ランクに分かれ、給与も社会的地位も全く異なる。
低位治癒師は社会の最下層、高位治癒師は貴族層といった具合だ。
同じ職業なのに、まったく不平等だと思う。
「…元々はみんな同じ奴隷から始まったのに」
僕の独り言は、まばゆい夕焼けの中に静かに溶けて行った。
「ただいま」
「おお、帰ったのか。お帰り」
「兄ぃ。帰ってたんだ」
「ああ。まあ叔父さんから連絡が来てな。なんだクーラ。お前、称号を貰え無さそうなのか?」
「げっ、だからか」
その日帰宅すると、珍しく兄がいた。
そう、非常に優秀で王族付きの治癒師となったあの兄である。
彼は、僕と同じ青い髪をゆらりと靡かせる。
「最低でも小動物の擦り傷を治せるようにならないと、低位治癒師にはなれないぞ。まあ、頑張るんだな」
「頑張るって言われても…」
「できないことが不思議なんだよ。このホロス家の血を引いといてさ。そのうざったい前髪が原因なんじゃないのか?」
「か、関係ないよ。そんなの」
「ふんっ、どうだか。自身の無さの表れなんじゃないか、と俺は言っているんだ」
兄はふんっと鼻で笑うと、その場を後にした。
昔は優しかった兄。今ではそんな彼も、僕に少しの期待もしていない。
「…どうしたらいいか一番悩んでいるのは僕なんだ。僕なんだよ」
握り締める拳。
掌に爪が食い込んで痛かった。
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