いつの間にやらの、団結
なかむら恵美
第1話
地面が揺れた、ような気がした、瞬間。
「わっ!」
ガンガン揺れる、揺れて揺れて揺れまくる。
かなり大きい。我々は地震に遭遇したのだ。
楽しい同窓会だった。一応は終わった。
けど、終わらないのが昔の友達。青春時代画を共に過ごした、面々だ。
「甘いモノでも」
誘ってうだうだ、計5人。
「もう1軒、行っちゃおうか?」
由紀ちゃんお奨めの店に向かう途中である。
皆々、ぐちゃぐちゃ。
車も人も、何が何だか分からない。
「大丈夫?」「ちょっとぉ~っ、昌子ぉ~っ!」
「とりっぺ、どこぉ~っ?」
打っ飛びそうになった各々の身体を寄せ合い、ぎゅっと塊になりながら、
我々もどこかへ向かう。しかし、どこへ向かうのかが分からない。
雑踏自体が、乱れている。
「ダメだ」どこかで声がする。
「歩けない」子供がしゃがむ。
ベビーカーの中でぐったりしている赤ん坊もいる。
その時。50代ぐらいだろうか?
普通のおじさん。
背広姿の男性が、両手を拡張器代わりにして叫んだ。
「みなさぁ~ん!!!」
この非常時に、何なんだ。何であんなに大声が出せるんだ。
何なんだろう、あの人は?
驚きと共が、注目の視線に溢れる。
「こんな時には、楽しい事を考えましょう!阪神淡路大震災と、東北大震災を
経験したんです、僕」
地面の揺れが、ようよう落ち着く。治まってきた。
一通りを見廻してから、ゆっくりとおじさんは話し始めた。
「皆さんにとって今、楽しい事は何ですかぁ~っ?正直、僕は給料日」
ドッと笑いが巻きあがる。
「今日は5日ですから、まだまだなのが残念ですが」
更なる笑いが、皆々を弾く。
「25日まで、あと少し。20日間しかない。その間、土日の休みを除けば
16日。16日後には再び、給料が入って来るんです!」
「あはははは」
高齢者が声を立てて笑っている。
「兎にも角にも、こんなんで最期を迎えたくありませんでしょ、みなさぁ~ん!」
「おうっ」
「そうだ、そうだ」
「だから楽しい事を考えて、この場を乗り切りましょう!」
パトカーと救急車の音が、段々近くなる。
いつの間にやら我々は、団結していた。
<了>
いつの間にやらの、団結 なかむら恵美 @003025
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