ドSお嬢の調教流儀 

ねこまる

第1話 運命が変わった日 —上—

———満月の夜。

大きな窓から差し込む月明かりを浴びて影を作りながら、屋敷の長い廊下を毅然とした足取りで進む人影が1つ。彼女の名はリーシャ。暗殺者である。


彼女が託された任務は『レイナを暗殺せよ』という至ってシンプルなものだ。レイナとは大貴族の一人娘であり、そしてこの屋敷の主人である。彼女の父であり『剣聖』と謳われるほど有名な剣士でもあるガリウスが遠い北の地に魔族討伐に赴いているため、今は臨時で彼女が家の主をしているのだ。

ガリウスが屋敷を出たのが丁度一昨日。

それが任務開始の合図だった。


「………」


レイナは無言で歩きながら、ここ数ヶ月のことを思い返す。


ターゲットの情報収集の為に身分を偽り、メイドとして雇われたのが3ヶ月前。それからはメイドとして屋敷で働き、少しずつ周りの人間と友好関係を築きながら屋敷のことやレイナのことを調べていった。

その間、何度もレイナを殺せるタイミングはあった。何せ相手は16歳の子供だ。自分より3つ歳下の少女など、殺そうと思えばいつでも殺せた。

それでもリーシャはレイナを殺さなかった。


——否。のだ。


それも全て、剣聖と称される剣豪であるレイナの父、ガリウスが屋敷にいるからであった。暗殺を生業として長年生きてきたリーシャは、相手の力量を見計らう能力も勿論備えている。故にリーシャは直感的に大人しくしていたのだ。

超格上ガリウスと。


そうしてリーシャは平凡なメイドとして更に時間を過ごし、今日に至る。

ガリウスが数ヶ月の間屋敷を留守にするこの時こそ、レイナ暗殺を実行する頃合いだ。


(…さて、やるか)


気づけばリーシャはレイナの部屋の扉の前に着いていた。時刻は深夜2時。他のメイドは寝ており、警備兵は


つまり、今この屋敷にリーシャを止められる人間はいない。


(ふっ。長かったメイド生活も遂に終わりか。楽しくはなかったが、悪くもなかったな)


リーシャは扉のドアノブに右手を掛けながら不敵に笑う。今まで経験したことのなかった生活を思い返しながら。そして、これから殺す少女の悲痛な顔を想像しながら。


(おっと、いけないいけない。気を引き締めないと。——仕事の時間だ)


しかしすぐに現実に戻り、リーシャは左手でナイフを握りしめながら息を殺してゆっくりとドアノブを回した。キィィィと小さな音を立てながら、細かな意匠が施された重厚な扉が開いていく。リーシャは扉に身を寄せながら、つま先歩きで足音を立てないように部屋に入った。


そこはレイナの寝室。大家族の娘らしく、天蓋付きの大きなベッドが出迎えてくれる豪華な部屋。

リーシャの仕事は、そこで寝ている少女の喉をナイフで貫くことだ。


———そのはずだった。


「………え?」


リーシャは部屋に入るなり、予想に反する光景に驚愕の声を漏らす。

そこには、扉の方を向いてベッドの縁に腰掛ける満面の笑みのレイナの姿があった。


「な、なぜ……?」


リーシャは動揺が隠せない。寝ているはずの相手が、寝ているどころかまるで自分を待っていたかのようにベッドに座っている。

とても理解が追いつかなかった。


「あら、リーシャ。こんばんは。察しはついているけれど、こんな夜更けにどうしたの?」


笑顔のまま顔を少し傾けてリーシャに尋ねるレイナ。しかし、その言葉は動揺を極めているリーシャの頭には入っていかない。


(どうして?この時間はいつも寝ているはず…。まさか私の素性がバレていた? …いや、今日まで向こうに怪しまれている様子は無かったんだ、それはあり得ない。なら一体どうして?……いや違う、そんな事より早く殺さないと!)


少しして冷静さを取り戻したリーシャは今の最優先事項を思い出す。『なぜ?』と考えるよりも先に、レイナに変な行動をされる前に殺さなければならない。それに、殺してしまえば今のこの状況は何の意味も無くなるのだ。


「———はっ!!」


リーシャは左手に握ったナイフを素早く構え、レイナの首元を狙って低姿勢から一気に距離を詰めた。


相手レイナは生身だ。一撃で殺せる。この一振りで終わらせる!)


リーシャは小振りの一撃を繰り出した。

刃がレイナの首元に触れる。

そのまま切先が喉を貫こうというその瞬間、しかし、リーシャの全身を強烈な悪寒が襲い、リーシャは全力をもって後ろに飛び退いた。


(い、今のは!?)


リーシャが暗い部屋の中を瞬時に見回す。しかし怪しい物は一切ない。

だとすれば——


(——今の強烈なはコイツから放たれたモノか…!!)


何故か彼女が起きていたことも踏まえて、リーシャは即座に認識を改める。レイナを殺すのは、ともすると一筋縄ではいかないかもしれないと。


その答え合わせをするように、今までずっとベッドに腰掛けたままだったレイナが立ち上がった。


「やっぱり、ね」


レイナの柔らかな笑顔が不気味に歪む。嗜虐的なまでに口元が綻ぶ。


(——っっ!!)


その様子に、思わずリーシャは怖気付いてしまった。とても16歳の少女が浮かばせて良い表情ではない。それ程までに歪んだ笑顔なのだ。


そしてレイナは歩き出す。リーシャに背を向け、部屋の奥にある窓際へと。

その動きに合わせてリーシャも位置を変えるが、背中から奇襲したら返り討ちに遭うという直感があった為、あえて様子を窺うことに徹する。


その当人は、窓の外に浮かぶ満月を見上げながら語り出した。


「わたしね、待っていたのよ。貴女がこうやって。何ヶ月もね。ふふふ、貴女は隠していたつもりかもしれないけれど、バレバレだったわよ。だって、貴女の歩き方は暗殺者特有のソレだったもの」


(——!?!?)


レイナの言葉に、リーシャの全身が震える。


(嘘でしょ!?歩行は一般人に似せていたし、何も違和感はなかったはず!それに、そもそもどうして見分けがつく!?)


内心で疑問を叫ぶリーシャに対し、まるで心を読んでいるかのようにレイナが言葉を続ける。


「わたしね、こう見えて魔法が得意なの。戦闘経験もそれなりなのよ?だから貴女を一目見た時から分かったわ。『ああ、この人はわたしを殺しに来たんだ』って」


そう言いながらリーシャの方に振り返ったレイナの表情は、さらに悍ましいモノに変貌していた。

頬が紅潮し、目はキラキラ輝き、口元にはわずかに涎が溜まっている。大好物を目の前にした子供のような無邪気な喜びすら感じさせるその表情は、リーシャの心に恐怖を生み出すには十分だった。


故に耐えられず、リーシャは心の中から疑問を吐き出す。


「…なら、何故私を排除しなかった?それに、分かっていたならそもそも雇わなければ良かった話だ。一体何故?」

「何故、ね…。そんなの簡単よ」


レイナがその瞼を閉じる。

そしてゆっくり瞳を開いた次の瞬間、、ナイフを叩き落としてリーシャを背後から抱きしめた。


「!?!?」

「はぁ、かわいい♡」


恍惚の表情を浮かばせるレイナは、状況の理解が追いつかないリーシャのことなど意に介さない。

そのまま爪先立ちし、自分より背の高いリーシャの耳元に口元を当てて囁いた。


「何故って、それはね、わたしは貴女のような強い女の子を屈服させて支配するのが好きで好きで仕方ないからよ♡」

「ひいっ…!!」


真後ろから囁かれる甘い口調のレイナの声に、リーシャは思わず恥ずかしい声を上げてしまった。それはもはや本能的反射と言ってもいい。己の本能が、『コイツはやばい』と危険信号を放っていた。


(さっきの速度は何!?全く反応できていなかった…!いや、そんなことより、早く拘束から抜けないと!!)


自分の両腕ごと後ろから抱きしめられてるリーシャは、体を全力で捻ってレイナの拘束から逃れようとする。しかし、それよりも早くレイナが魔法を唱えた。


「ごめんね、ちょっと痛くするわ。“微雷よ迸れビブラシオ”」

「かはっっ…!!」

「ごめんね、少しの我慢だから」


レイナの手から微弱な電流が打ち出され、それは即座にリーシャの全身を麻痺させた。

床に倒れたリーシャの全身はピクピク痙攣し、言葉すらまともに話せない。


「かっ…、くっっ……」


(くそっ、やられた!全身の自由が効かない…)


その様子を立ったまま見下ろすレイナは、続けて魔法を使う。


「“浮かび上がれフラーリエ”」


(っっっっ!?)


直後、リーシャの体が1メートルほど浮かび上がった。ちょうどレイナの胸の辺りまで。

そんなリーシャの体を、レイナは両腕で下から抱き抱えた。


(今度は何を……)


不安に顔を歪ませるリーシャを宥めるように、レイナは優しい口調で語りかける。


「大丈夫、あとは痛くないわ。むしろその逆。気持ちイイはずよ」


(……?)


理解に苦しい発言をするレイナは、リーシャを抱き抱えたまま部屋の壁に向かって歩き始めた。

何の変哲もない、ただの木製の壁に向かって。


そのまま歩くこと数秒後。レイナは壁の前で立ち止まり、顔を下に向けて抱き抱えたリーシャの目を見ながら話し始める。


「わたしはね、さっきも言ったように貴女みたいな強い女の子が屈服する姿が大好きなの。わたしに対して敵意を向けている人が屈する様なんて尚更だわ。だけどね、ただ屈するだけではダメなの。そんなの、今みたいにわたしが魔法でこてんぱんにしちゃえば終わっちゃうでしょ?つまりね、わたしの言う『屈服』は、物理的に負けてわたしに従うしかなくなっちゃう事じゃなくて、ことを言うのよ♡」


(………………)


リーシャが見上げるレイナの表情が、みるみるうちに歪んでいく。嗜虐と官能に満ちた表情に。


「今の貴女の瞳にはまだ戦意が宿っているわ。うん、それも最高よ♡ だけどね、それではまだ足りない。貴女はまだわたしに屈服していないわ。だからこれからじ〜っくり時間をかけて肉体的、精神的に調教してあげる♡ 今はわたしを敵対視しているみたいだけれど、いつか貴女は自らわたしを求めてくるわ。わたし無しでは生きていられない体にしてあげるの!!必ずそうしてみせるわ!!それこそ屈服!!何度も言うけど、わたしはこういう屈服を愛してるの!♡!♡」


(………????)


リーシャは何一つ理解が及ばない。レイナが言っていることを言語としては認識できるが、それを理解できない。いや、理解したくない。


それでも興奮状態のレイナは止まらない。

顔に熱を纏わせたまま、目の前の壁に手のひらを当てて新たな事実をリーシャに告げる。


「この壁はね、魔法がかけてあるの。つまり、普段はただの壁だけど、わたしだけはこの壁を。わたしが触れているものも通過できるから、今は貴女も通過できるわ。じゃあ、入るわよ」


そう言いながらレイナは壁に向かって歩き出した。そして彼女の言う通り、壁は2人を阻むことなく通り抜けさせた。まるで最初からそこには何も無かったかのように、2人は壁の向こう側へと辿り着く。


(な、なんだコレは!?)


レイナに抱かれるリーシャは驚愕せざるを得ない。

だが、それは壁を通過したからではなかった。

の姿を目にしたからだ。


ソレはまるで大きな触手の塊。ソレはドクドク脈打ち、己が生命体であることを証明している。また、無数に伸びた太く長い触手が今にも2人を襲わんと蠢き、レイナはその様子を見て「ふふっ」と笑った。


(コイツは一体なんだ、魔物か…? まさかレイナコイツ、私をこの化け物の餌にする気じゃ……)


リーシャの頭に嫌な光景が思い浮かぶ。この化け物に捕食される凄惨な光景が。


しかし、そんな光景は続くレイナの質問の前に吹き飛んだ。


「ところで貴女、1ことはある?」


(え?)


あまりにも唐突なその質問に、リーシャの思考が停止する。

その直後、リーシャの股間にレイナの細い指が伸びた。


「くかっ!?」


急に慣れない刺激に襲われて、麻痺したリーシャの体は反射的に声にもならない声を上げた。


(コイツ、何をっ…!?!?)


麻痺による痙攣とは別に、その体の震えに官能が含まれていることをレイナは感じ取った。

そして、さらにその表情が赤みを帯びる。


「ああ、かわいい♡ けど残念、この様子だとあんまり1人ではシないみたいね。それだとちょっと刺激が強すぎるかもしれないけれど、まあそれも悪くはないわ。じゃあ、イッてらっしゃい♡」


笑顔のレイナが、抱いていたリーシャの体を触手の異形に向けて投げ飛ばした。

浮遊の魔法が持続しているリーシャの体は、フワフワ空中を漂いながら怪物の方に向かっていく。

そんなリーシャの体を、怪物は触手を巻きつけてしっかり掴んだ。


(やめろ!気持ち悪い!離せ!!)


いくら抵抗しようとしても、麻痺した体はリーシャの言うことを聞かない。心の中での抵抗虚しく、リーシャの体は瞬く間に触手に取り込まれ始めた。


(くそっ、こんなところで死ぬわけには…)


ピンク色の触手がリーシャの顔を埋め尽くしていく。視界が奪われ、呼吸が苦しくなっていく。

そんな中、リーシャの耳は皮肉にもレイナの最後の言葉を聞き入れてしまった。


「ソレはね、わたしがよく愉しんでいる魔物ペットで、名前はルンちゃん。ルンちゃんはヒトのメスが大好きで、相手を苗床にして卵を産みつける生態なの。普段わたしと遊ぶ時はわたしが射精を封印してる分、今のルンちゃんはわ。けど大丈夫。5時間くらい射精させれば解放してもらえるはずよ。産み付けられた卵は後でわたしが処理してあげるから安心して」


(な、何を言って……んぐっ!?)


絶望の色が瞳に浮かび始めたリーシャの口に、触手が入り込み始めた。

それでも尚、レイナは微笑みながら続ける。


「それと、女の子はね、絶頂する時に少量の魔力を体内から放出するのよ。ルンちゃんはそれが大好きでね、わたしたちのことを全力で責め立ててくれるの。うん、最高に気持ちイイわ♡ それにルンちゃんは貴女みたいに強く抵抗してくる相手ほど興奮するタイプだから、頭がおかしくなっちゃうくらいに責めてくれるはずよ♡ じゃあ、わたしはここで見守ってるから、思う存分ヤられちゃってね♡ 死にそうになったら回復してあげるから」


(そんな……、そんなの……んぐっぁっ!?)


レイナの言葉が終わると同時に、リーシャは完全に触手に取り込まれてしまった。

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