ライバルの妹に生まれ変わってしまった

ふうこ

 事故だった。

 死んだと思った。だってトラックに轢かれたんだ。

 幼なじみでライバルで親友のあいつが居眠り運転のトラックに轢かれかけたあの時、とっさに体が動いていた。

 あいつを突き飛ばして、代わりに自分が轢かれたんだ。

 突き飛ばした時の情景がスローモーションのように、脳裏に焼き付いている。突き飛ばされてびっくりした顔のあいつが徐々に絶望に染まっていく様に、「そんな顔すんなよ」と、笑いかけた。つもりだった。

 だって俺は満足だ。お前を庇って死ぬんだったら本望なんだよ。だからそんな顔、しないでくれ。……あと、お前の事が大好きな妹のこと、よろしくな。


 衝撃。そして、暗転。――のち、光。

 誰かに手招きされたような、抱きしめられたような、奇妙な感覚があった。

 もう大丈夫ですよ。迎えに来ました。そんな風に言われた気がした。だから俺も、ありがとう、と礼を言って身を委ねて――そして、今。


 俺はなぜか、女の子になってベッドで寝ていた。




 ……はい?




 先生! 大変です、みさきちゃんが目覚めました! なんだって!? バイタルは――? 正常です! 全て安定しています! 奇跡だ!!! 渡井わたらいさんに連絡を!!

 慌ただしい声の応酬と足音が周囲を幾重にも取り囲んだ。眼は醒めたけれど色々分からない。ここはどこで、俺はだれ――ちょっと待て、岬って聞いた覚えがある名前だぞ? たしかそれって――


「岬!」

「ああ、岬……目が覚めたのね」

「お、おじ…さ、お、ばさ…ん……?」

「ああ、そうだよな、分からないか……岬、お父さんだよ」

「お母さんよ! ああ、良かった、岬……!」

「お、おと、…さん、おか、…あ、さん……?」


 おじさんとおばさんが? ――あいつの父さんと母さんが? なんで俺の手を取って、嬉しそうに泣いているんだ?

 少し経ってから、ほら、お前も! と前に押し出された少年の姿を見て、俺は眼を瞬いた。あいつだった。俺がトラックから庇った、親友だ。

 そうだ。妹が居たという話は聞いていた。ずっと病院に入院していて、絶対安静だから自分は見舞いにも行けないと。両親は妹に付きっきりだから、あいつはずっと親から放任されていて、その分、隣の家の俺の家に入り浸っていた。親友で、ライバルで、半分くらいは兄弟みたいに育った仲だ。同い年だったけど、妹と併せて弟みたいなものだった。妹もあいつが大好きだったから、多分そのうち、本当の弟になるんだろうなと思っていた。


「……ひ、ひかる……?」


 手を伸ばそうとしたけれど、体は全く動かなかった。おじさんとおばさんは泣きはらしたせいだろう、目元が赤く染まっていた。けれど光だけは平静だった。いやでも、ちょっと待って。今の状況がちっとも全く分からない! どうして俺は、おじさんとおばさんに、岬ちゃんの名前で呼ばれてるんだ!?






 混乱したときは、取りあえずちゃんと周りをよく見て、話を聞くこと。それが原因解決の第一歩だ。

 そういうワケで、俺はまず、周囲を観察することにした。


 今居る場所は病院だ。看護師さんやお医者さんが色々と面倒を見てくれる。検査や問診であれこれと連れ回され、それだけであっという間に時間が過ぎた。食事は、初日は点滴、それから重湯に変わり、それがしばらく続いた後、少しずつ、本当に少しずつ、重湯に米分が増えていった。

 体は清拭で、看護師さんが清めてくれた。その時にちらりと見たけど、どう見ても体は女子だ。鏡も見せて貰えた。長い入院で痩せこけてはいるけれど、光によく似た可愛い子だった。

 光は初めに1回お見舞いに来たきりで、後は一度も来なかった。おじさんとおばさんは毎日やってきて、いろいろなことを話してくれた。俺はそれをただにこにこと笑って聞いた。

 みんなあなたが目覚めたことをお祝いしてくれているのよ、と嬉しそうに語るおじさんおばさんは、子煩悩の良い人なんだろう。……でも、少しだけ思う。交互で良くない? 光は? ……光はどうしているだろうか。


 これまでは、光はずっとうちにいた。うちの家族と一緒に過ごした。父さんと母さんと妹と光と俺。うちの父さんと母さんも仕事で忙しい人だから、もっぱら妹と光と俺の3人で、兄弟妹のように、家族のように暮らしてた。何しろ光、寝るときさえ俺の布団の中に潜り込んできて俺と一緒に寝てたからな。


 病院食が、ようやく普通の病院食になった。検査の結果は良好で、リハビリも至極順調だった。早く他院したくて、俺は目一杯頑張っていた。おじさんとおばさんがそんなに頑張らなくても大丈夫よと言うくらいには、頑張った。

 ……光は来ない。最初の1回以降はずっと。

 意を決して、おばさんに「光は、どうしてますか?」と聞いてみた。そうしたら、びっくりするくらい怖い顔で怒りだした。薄情な子なのよ、と。妹が目が覚めたのに、ちっとも興味も関心もないみたいで。あんなに冷たい子だと思わなかったわ! と泣き出したおばさんを、おじさんがなだめて慰めていた。おじさんは少し疲れた顔で困ったように笑いながら、「仲良しだった隣の家の子が亡くなってしまってね、きっとショックだったんだろう」と教えてくれた。


 目の前が真っ暗になった。

 俺はやっぱり、死んでいたんだ。






 どうして祐也ゆうやは僕なんか庇ったんだ。僕が轢かれてしまえば良かったんだ。

 居眠り運転のトラックが迫ったとき、後ろから誰かに突き飛ばされた。それが祐也だと分かった瞬間、ほんの少しだけ時が止まったような錯覚があった。「お前が無事で良かった」と言うように、あいつが微笑んで、それはすぐに、トラックに――


 死体は酷い有様だった。轢いたことに気付かなかったトラックに、運悪く彼の体の一部が絡まり、延々と引きずられたからだ。辺りは一面血まみれで、そこら中に肉片が飛び散っていた。

 葬儀は簡易なものだった。棺桶の中身は空っぽで、かき集められた彼の遺骨が少しだけ納まっていた。……あまりの惨状に、火葬は先に行われた。

 祐也の葬式でも、泣けなかった。おじさんもおばさんも僕を責めなかった。君を助けた息子をただ誇るって。祐也の妹……美香沙みかさは「お前が死ねば良かったんだ!」と僕を詰ってくれたけど、おじさんとおばさんにこっぴどく叱られてしまった。だから、叱らないでくれとお願いして――だって、美香沙の思いは、僕の思いでもあったから。祐也じゃなくて僕が死ねば良かったのにって、心の底からそう思ったから。

 その夜、僕は両親から妹の入院している病院へと呼び出された。行きたくないと伝えれば、散々に罵られた。――おじさんとおばさんに促されて、僕は渋々、病院へ向かった。

 長らく意識のなかった妹が、目覚めたのだそうだ。両親は咽び泣いていたけれど、祐也を失いどん底にいた僕にはどうでもいいことだった。


 岬は本当に目覚めていた。呆然とした眼で周囲を見ていたから、色々頭が追いついていないんだろう。

 確か、5歳くらいで意識を失って、それから先はずっと眠ったままだった。詳しい症状とか状況とかは知らない。興味もなかった。母さんが付きっきりで看病してたし、僕は病院に連れて行ってもらうことさえなかった。小さい子供がうるさくすると病院や岬に迷惑だからって。

 7歳ならもうお兄ちゃんなんだし、一人でお留守番くらい出来るわよね? と言われて、後はそのまま放任だった。


 僕を育ててくれたのは、隣の家の祐也だった。祐也の家は両親共働きで、祐也も妹と二人で過ごすことが多かった。そこに、僕を加えてくれた。一人ならこっち来れば? って。ご飯を作ってくれたのも、お風呂の面倒見てくれたのも、勉強を教えてくれたのも、一緒に寝てくれたのも祐也だ。寂しい時には一緒に居てくれて、悪いことしたら叱ってくれて、良いことしたら褒めてくれた。同い年なのに、とてもそうは思えないくらいお兄ちゃんで、僕も彼の本当の妹の美香沙も彼にべったりだった。どっちも負けないくらい祐也のことが大好きだった。


 岬のお見舞いから帰ってきて、すぐに隣の家に帰った。

 おじさんとおばさんは、もう仕事に行っていなかった。

 真っ暗な部屋の中で、美香沙だけが一人ぼっちで、祐也の遺影を抱いて泣いていた。


「美香沙」

「何よ」

「腹、減ってない?」

「……空いてる」

「なにか作ろうか」

「いらない」

「でも」

「お兄ちゃんの作ってくれるチャーハンが食べたい! 他のものなんか、食べたくない!」


 僕もだよ。僕だって、祐也が作ってくれるご飯が食べたい。

 祐也は、すごく料理上手ってわけじゃない。今なら多分、僕のが美味く作れるやつも結構ある。

 でもそうじゃないんだ。祐也の料理は、あったかいんだ。美味しいんだ。何度でも何度でも、食べたくなるんだ。


 でも、いまはもう、祐也はいないから。


 チャーハンを作って、美香沙の前に置いた。美香沙の手が器を乱暴に振り払って、中身は床に散らばった。

 僕は無言でしゃがみ込んで、それをちゃんと片付けた。――祐也がするみたいに。

 ほんの少しだけ見上げた先で、美香沙はボロボロ泣いていた。顔を真っ赤にして、嘘みたいにぼたぼたと涙を膝にこぼして、口はこれ以上ないほどへの字に歪めて、膝の上では小さな掌を固く固く握りしめてた。

 ……ごめんなさい。僕が、君の兄さんを、……僕たちの兄さんを、死なせてしまった。


 来年には大学進学の予定だった。二人とも、同じ大学が目標で、切磋琢磨していた。僕の方がいつも少しだけ成績が良くて、祐也は次は負けねぇからな! といつも言っていて、――喧嘩もして、笑い合って、ふざけ合って。

 ……おかしいなぁ。今はもう灯りは付けたのに、どうして部屋の中がこんなにも暗いんだろう。空気が重くて、息をするのも、なんだか苦しい。


 ふたりぼっちになってしまった。

 美香沙と僕だけが取り残された。


 どれくらい経っただろう。美香沙から言われた。「あんた、なんで泣かないのよ」って。

 言われて初めて気がついた。僕、まだ祐也がいなくなってから、一度も泣いていないんだって。


 毎日があんまりにも曖昧で、ぼんやりしていて、祐也のいない世界はまるであるのかないのか分からないみたいだ。

 それでもちゃんと、毎日朝起きてご飯を胃の中に詰め込んで、僕は毎日をただ生きていた。

 だってこの命は祐也から貰ったものだから。僕が勝手に捨ててしまって良いものではなくなってしまったから。


 でもさ、祐也。会いたいよ。

 僕はただ、君に会いたい。


「光!」


 不意に呼ばれて、顔を上げた。

 そこには、岬が立っていた。

 あの病院で見た姿とは随分変わっていた。痩けていた頬も少しだけふっくらして、自分の足で立っていた。横には心配そうな顔をした母親がいて彼女を見守っていた。


 ……あれ? なんだろう、すごく……違和感、が。


「なんて顔してんだよ、光。大丈夫か? 飯、ちゃんと食べてるのかよ!?」

「……え、っと?」

「岬ちゃん、光はあなたのお兄ちゃんなのよ、もう大きいのだし、光お兄ちゃんって呼びましょうね?」

「そんなのどうだって良いよ! おば――おかあさん、光を見て何も思わないの!? あんな顔色してるのに!」


 走り寄ってきた妹が、僕の顔に手を伸ばす。その向こう側に、祐也の姿が、見えた気がした。


「あっ、くそ、身長差……! お前、かがめよ光!」

「うん……」


 思わず言われるままにしゃがむと、岬の小さな手が僕の頬をがしっと挟んだ。親指の腹が頬を撫でる。


「カップ麺食ったな!? それも結構な頻度で! ……肌荒れるから止めろって言ったろ」

「……だって、祐也が、いなかったから」


 ぽろりと、言葉がまろびでた。うらみごとじゃない。ただ、それが事実だったから。

 岬の手に、自分の手を重ねた。祐也の手とは全然違う、美香沙よりも小さな、女の子の手だった。美香沙と同じ15歳のはずだけど、発育は彼女よりずっと悪いみたいだ。


「ごめんな、置いてっちまって」

「……なんで、岬が、謝るの? まるで祐也みたいだ――……祐也、なの?」

「おう。なんでかわかんねーんだけど、俺なんだ。あ、おばさんには内緒な。多分泣いちゃうから」


 こそっと小さな声で告げられた内容に、驚きすぎて何も言えなくなった。

 ――祐也? 岬が、祐也? うそ、だ。そんなのありえない。――あり得ないのに、仕草が、眼差しが、気配が、全部が祐也と同じだった。岬の手が、頬を撫でた。まるで僕の涙を拭うみたいに。その時漸く、僕は自分が泣いていたことに気がついた。泣き虫だなぁ、ちっさい頃から変わんねーの、と言いながら僕の鼻を摘まむ岬の姿をした祐也が笑う。その笑顔に、僕は思わず彼女――彼に抱きついていた。

 声を上げて、泣きながら。

 ――そのすぐ後に、母親から散々叱られ、引き剥がされたけれど。


「はー、やぁっと解放された」

「うちの母親がごめんね、祐也」

「いや、まぁしょうがねーよ。ずっと寝たきりだった一人娘を一人息子が割と乱暴に抱きしめたからな。何事かってヤツだよ。この半年くらい、ずっとべったり四六時中張り付かれてから割と精神的に参った。お前のかーちゃん極端だよなぁ」

「それは僕も割とそう思う」

「でもさぁ、お前もよく俺の言葉信じるよな。普通ありえねぇってならねぇ?」

「だって祐也は祐也だし。……雰囲気も仕草も言葉使いも全部祐也だから……」

「お、おう……。ありがとな、信じてくれて」


 隣家に移ってきた。母親には折角元気になったのだから、同じ年の美香沙に紹介するからと言い含めた。二人がかりだ。

 現状は誰もおらず、預かっている合鍵で家に入った。目の前には天津丼が置かれている。ちょっと分厚い薄焼き卵と白飯、それからあまだれだけのシンプルでしかないそれは、祐也の得意な手抜き料理だ。スプーンで掬って一口含むと、また涙が溢れてきた。懐かしくて、美味しくて、――胸の中がどうしようもなく温かくなって。

 祐也を抱きしめる手にも力がこもる。今彼は僕の膝に乗っている。


「そんな泣くほど美味かった?」

「うん……う゛ん゛、おいじい。お゛い゛し゛い゛よ゛ぉ゛……」

「そっかぁ」


 お前相変わらず残念なイケメンだなぁ……と言いながら、食べ終わった僕の頭を抱え込むみたいにして、祐也が頭を撫でてくれる。この距離感も、懐かしくて、涙が溢れて止まらなくなった。祐也だぁ……。


「ちょっと! なにこの匂い!? お兄の天津丼の匂いがする!!!」

「あ、美香沙おかえり! 久しぶ――じゃなくて、初めまして!」

「……は? 何この絵面……地獄? ちょっと光、あんた何ひとんちに女連れ込んでいちゃいちゃしてんのよ、師ね」

「こら、美香沙、そういう言葉使いはダメだろ! いっつも言ってただろ、仲良く! って」

「……何よあんた。なにひとんちのお兄のモノマネしてくれてんの? キモ」

「き……きも……!?」

「美香沙、紹介するよ。彼女は岬。正真正銘、僕と血の繋がった妹だよ。実の家族で、何があっても繋がりが切れることのない間柄だよ」


 背中からぎゅっと抱きしめながら『岬』を紹介した。これまで散々実兄妹マウント取られてきたからな。

 実の兄弟じゃない上に男同士、二重苦じゃーん、と煽りに煽ってきたことは忘れない。


「その紹介の仕方、なんかおかしくないか?」

「ああ、意識不明から目覚めたっていってたあの――それはともかく、なんでお兄の天津丼の匂いがすんのよ。あんた、どっかに冷凍保存してたの?」

「俺が作ったんだよ。美香沙も帰ってきたなら食べるか? 腹減ってるだろ?」

「だからなんであんた……が………………お兄? え? お兄ちゃん!? ちょっと待って、あんた――」

「美香沙も分かってくれる!? マジか!?」

「わー、きもちわるーい。ちゃんと教えられる前に気がつくとか……」


 美香沙がこちらに突進してきた。僕の手の内からまるで奪うようにして、岬――祐也の体を抱きしめようとしたところを妨害したら、手を思いっきり爪でひっかかれた。おい、血が出たんだが!?


「美香沙! ダメだろ、そんなことしちゃ! 光もいい加減で俺を放せよ!」

「だって!」

「嫌だ!」


 二人同時に抗議の声。そして同時に顔を見合わせにらみ合った。その頭に、祐也の――今は岬のか弱い拳がぽこぽこと振り下ろされた。痛くない。……痛くないことは少しだけ哀しくて、でも、かつてみたいに叱って貰えたことが嬉しくて、泣き笑いみたいな顔になった。美香沙を見れば、彼女もおんなじ顔だった。

 ……悔しいけど、僕と美香沙はよく似ている。祐也が大好きなところが、特に。


「ほら、光、放せよ。美香沙のご飯作るんだから」

「……分かった」

「お兄ちゃん、私! 私も天津丼がいい! お手伝いもするよ! 一緒に作ろ!」

「美香沙、お前、料理出来るようになったのか?」

「……だって、お兄ちゃんがいなかったから……インスタントばっかり食べてたら、お兄ちゃんに怒られちゃうって思ったから……」


 僕が祐也を放すと、今度は美香沙が彼女にがっつり抱きついた。イラッとした。

 そうしてくっついて並ぶと、岬の身長は美香沙より拳一つ分ほど小さかった。悔しいけれど、丁度良い身長差が羨ましい……。

 料理が出来るようになったと自己申告した美香沙の頭を、低い位置から岬が撫でる。よく頑張ったな、と。高さこそ違うけれど、表情も仕草も、全部祐也だ。誘われるようにふらふらと近づけば、岬を抱きしめた美香沙に威嚇された。


「お前らこんな仲悪かったっけ? もっと仲良しだったろ?」

「それは祐也が仲良くしろって言うから!」

「お兄ちゃんが仲良くって言ってたからだよ!」


 二人同時に抗議して、それから思わず顔を見合わせて、二人同時に笑ってしまった。

 だってそうだろう。祐也がいるんだ。いてくれるんだ!






 さて、それから。

 光は当初の予定を変更して、地元の大学に進学した。絶対家から通学したい、とのことで。俺はおじさんおばさ――両親の希望と諸々も条件から女子校に進学が決まった。美香沙と同じが良かったけど、そこはしょうがないな……と諦めてたら、なんと美香沙がこっちに転入してきた。行動力すげぇよ、我が妹ながら……。光が滅茶苦茶悔しがっていたのは、やたらと嬉しそうな美香沙から聞かされた。

 うーんしかし。

 休日の度にデートと称してかつての妹美香沙から競うように連れ出されるんだが、将来が心配になるぞ、兄ちゃんは。

 お前らちゃんと彼女ないし彼氏作れよな?


 ……――ということを何度か口にしようとして、そのたびに、なぜか俺は口を噤んでいる。

 そのほんとうの理由に気がつけるのは――認めることが出来るのは、果たしていつになるんだろうな。

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ライバルの妹に生まれ変わってしまった ふうこ @yukata0011

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