焚書あるいは備忘録

おじぇ

幾多の世界を超えて流れ着く妄言郷

おや、お目覚めのようですねお客人。


はじめまして。私はこの【妄言郷】の案内人。妄言郷はあらゆる世界でまだ、あるいはもう存在していないモノたちが流れ着く境界。簡単に説明するのであれば、それは忘れ去られたものもや、これから生まれ落ちるものもなどが存在を保つための世界とでも言いましょうか。


ええおっしゃり通り、妄言郷に来たモノは元の世界から完全に消えています。貴方のように……しかしご安心ください。それは一時的なものであり、いずれは元の場所へと戻っていくことでしょう。もっとも自らここに残る選択をした場合はその限りではありませんがね。


私の名ですか……ふむ。どうやら長い時間一人でしたので、自らの名をつい失念してしまいました。


名前を忘れる事などあるのかですって? 


そうですね。こうして誰かとお話するのも、地球時間で表すと数千年ぶりのことでして……ふむ。名がないとコミュニケーションが不便だと。


ではこうしましょう。私のことはギドとお呼びください。これなら……なに? 意味が変わってないと? ですが日本で同じ役職の人間にはなどと呼称されると記憶していますが。


なぜ日本国を知っているのか?


ええ、それがどういうわけか、ここには地球の日本国の住人が流れ着くことが多いのです。もちろんその他の場所から迷い込む方もいらっしゃいますが、もっぱらここに流れ着くのは日本人ばかりですね。こうして貴方と意思疎通出来ているのも、初めて妄言郷でお会いした方が日本人の作家様だったからです。


それに妄言郷へ流れ着くのは人だけではございません。生物、非生物。有機物、無機物。物体、非物体。姿形も住む世界さえ違うモノたちが流れ着くのが、ここ妄言郷でございます。


元いた場所への帰り方……ですか? これまた異なことを申されますね。ここに迷い込んだのは貴方の選択。であるならば、ここから抜け出すのも貴方次第でございます。


どうして、なぜ、などと問うつもりはございません。ここに流れ着く理由など、それぞれでございますから。


ただ、そうですね。帰る前に少しだけでも、私の話相手になっていただけると嬉しく思います。先ほども申した通り、こうして話すだけでも数千年ぶりですから。


妄言郷は数え切れないほどの物語が流れ着くので、暇を持てますことはないのですが、如何せん話すという刺激がないと思考が鈍ってしまうと言いますか。


とにかく少しだけお話を聞いていただけるだけでも十分なのです。


内容は……そうですね。長年ここに残り続けているモノ達を観て回る。なんてのはどうでしょうか? 


貴方は神の形をご存知ですか?


奇跡と魔法の違いがなんなのかは?


人ならざるヒトの物語なんてのはどうでしょう?


日本国ではファンタジーという、数多の創作物あると聞き及んでいます。であるならば少しは興味を持たれるのではないですか?


ええ、存じておりますよ。あなたが来た理由。それは好奇心。好奇心は人を殺すなどと言われますが、好奇心なくして進歩することなど決してありません。


危うきに近寄らずとも、いずれは脅威が押し寄せてきます。未知を既知に変えてこそ確かな対策と成り得るのです。それが眉唾物だったとしてもね。


脅すようなことばかりで申し訳ありません。ですがコレは大事なことなのです。何故なら裏を返せば、その先にこそ真実が待ち受けているかも知れないにですから。


さあ、心の準備はよろしいですか?


これから貴方が見て聞いて体験するのは、そんな未来があったかも知れないモノ達のいわれです。




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