第13話 夏の始まり
『雷がなると梅雨が明ける』と、言われている。太平洋高気圧が発達すると、梅雨前線を北上させて、梅雨明けとなる。その時、夕立や雷が発生しやすいのだそうだ。
その日。突然、激しい雷が町全体に轟いた。その直後。滝のような雨が一瞬にして、周囲の道路を水浸しにした。そうかと思うと、雨は唐突に上がり、何事も無かったかのように、雲の隙間から夕日が差し込み、東の空には、巨大な虹が現れた。これら一連の天候の急激な変化は、長い長い、雨の季節の終わりが近いことを告げていた。
夕方になるとヒグラシが鳴くようになっていた。さらに暗くなると、校庭をヨタカが、鋭い声を上げながら飛び回った。ちょっと寂しげなその声すらも、僕にとっては何か楽しいことが起こる予感に満ちたものだった。
もうすぐ、夏休みがやってくる。
「UFOを探しに行きましょうよ」
そう言ったのはゆきだった。僕らはいつものように図書館にいた。傍らには、『お化け捜査官の詩』が広げられている。近くで本を読んでいた少女がゆきの声に反応して、一瞬こちらを見てから、すぐに自分の本に目を戻した。僕らは、声のトーンを落として、話を続けた。
「UFOなんて、何処にいるんだよ」
「この本にヒントがあるのよ」
ゆきの言っている『この本』とは、もちろん『お化け捜査官の詩』のことだ。その中に、少年二人と少女が、UFOを見るというシーンがあった。
「このシーン、場所と時間が特定されているのよ。八月一日の午前四時。霧ヶ峰の頂上で、三人はUFOを見るの。もし、この本が私たちのことを予言しているのだとしたら、この時間に霧ヶ峰に行けばUFOが見られるはずよ」
話しながら、ゆきが、どんどんと興奮していくのがわかった。偶然なのか、それともこれも予言の一部なのかわからないが、僕らの街から、霧ケ峰までは、それほど離れていなかった。
すぐに、聡が登山ガイドを借りて来た。それによると、電車とバスを乗り継いで、四時間あまりで、霧ヶ峰山頂付近のバス停に到達できる。そこから、一時間程登れば、頂上に立つことができるはずだ。
「これだと、山頂付近で一泊しなくちゃならないぞ」聡が言った。
「僕と聡は、まあなんとかなるとして、ゆきは大丈夫? お母さん、許してくれないんじゃないかなあ」
「作戦を考えるわ」
ゆきは本気である。既にゆきの中には、『行かない』と言う選択肢は無かった。
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