第12話 一冊の本

 どこの小学校にも、代々受け継がれている怪談話なんてものがある。例えば、去年まで僕が通っていた小学校でも、音楽室に関するちょっとした噂話があった。

 曰く、『夜中に音楽室からピアノの音が聞こえる』とか。

 そもそも、いったい誰が夜中に音楽室に行ったのだろう。そんな点から考えても眉唾物だが、なぜか音楽室、もしくは図書館というのは、ターゲットになりやすい場所の一つである。

 今僕が通う学校の図書館は、実に巨大で、立派なものである。そして、当然のことながら、この図書館にも代々伝えられている怪談話があった。

 しかし、いくつかある噂のどれもが、お化け捜査官を名乗る僕達からすれば、しょうもないものばかりだった。

 例えば、『江戸川乱歩の本は、呪われている』。

 あるいは『百科事典の第四巻は、開くと不幸になる』。

「俺たちのプライドにかけて、この手の話には踊らされないのだ」

聡は、よくそんなことを言っていた。


 そんな聡がある日、一冊の本を図書館から借りてきた。

「気になる本を見つけたんだ」

その本のタイトルを見ると、僕もゆきも自分の目を疑った。

『お化け捜査官の詩』

本の表紙には、そう書かれていた。やや大きいサイズの子供向けの本だ。絵本ではないが、中には挿し絵がふんだんに使われていた。

「読んだのか」僕が聡に聞くと

「ああ、さっき読んだ。短いから、お前も読んでみてくれないか」と、言った。

聡の目が、軽く宙を泳いでいた。その目が時々、右上を向いたまま止まったりする。おそらく、何かを必死に考えているのだ。でも、考えがまとまらない。そしてまた、その目は何かヒントを求めて、宙をさまよい始めた。


 本の中の主人公は、二人の少年と、一人の少女だった。その三人組は、自らを、お化け捜査官と称して、自分たちの小学校で起こる怪談事件を次々に解決していくというストーリーだった。


「これ、まるで俺たちのことみたいだと思わないか」

改めて言われるまでもなく、僕も同じことを考えていた。

「これ、いつ書かれたんだろう」

本の裏側を見てみると、初版、1970年と書いてある。

「予言、ということなのかしら」

ゆきが言ったその一言は、僕や聡が言いたくて、でも、なかなか言い出せない一言だった。

「そんなバカな」聡が言った。

「でも・・・」僕はゆきの言葉を否定できなかった。

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