雨に紛れて
雨詩
第1話 雨とギター
〈A視点〉
その日は、雨が降っていた。1日中、画面に向かいながら曲を書こうとはしていたが、何も浮かんでいない。ただ、既存曲をなぞるだけ。
その日の夜に、私は訳も分からず、ギターを持っていた。食事も取らず、気づけば手にあった。ただ、胸の奥がざわついて、何か落ち着かなくて、何かを吐き出したくて、、言い訳をしようとすれば、たくさん出てくるけれど。とにかく弾かなければ、歌わなければ仕方がなかったのだろう。それは、今の私にもわかる。
ベランダの窓を少し開けて、暗い空に向かって歌う。ギターのチューニングだってぐちゃぐちゃだし、雨にかき消されて声が出ているのかも怪しい。声が震えようとも、音が途切れようともどうでもよかった。ただ何かを吐き出したかっただけなのだから。「誰にも届くな」と思いながら、「誰かに届け」と願っている。その時の私は、矛盾しているだなんて気づきもしなかったのだろう。時間が止まってほしかった、それだけだった気がする。
「何してんだろ、私」
ずっと歌い続けた。雨音に紛れることをいいことに。
〈B視点〉
その日は、雨が降っていた。1日中、画面に向かいながら原稿を書いていても、何も浮かんでこない。
気晴らしに散歩でも行こうかと、コンビニまで傘をさしながら歩いた。その帰り、近所の公園辺りまで来たときだろうか。とあるアパートの2階から、雑なギターの音色と掠れている歌声が聞こえてきた。音は途切れ途切れだし、なんなら雨音に紛れて、どんな曲かもわからない。でも、気づけば傘も放ってその場に立ちすくんでいた。耳に届いたその声が、胸の奥、ずっと誰かに見つけてほしかった場所を優しく、そして鋭く叩いた。
誰の声かも、どんな曲かもわからないのに、その場から離れられなかった。逃げたかった。でも逃げられなかった。聞いてるだけで、苦しかった。でも、優しかった。
ずっとその場に立ち続けた。人が通らないことをいいことに。
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