三年眠太郎

 昔むかし、川の上流にある村に「太郎」という男児がいた。


 太郎は当時としては珍しい40歳を超えた母親から産まれた子供だったため、幼少期から村の人々の間で「桃から生まれたのではないか?」と噂されていた。


 中には「桃から産まれたから、オマエは桃太郎だ!」などと堂々とからかうクソガキもいた。



 やがて、太郎は思春期に入ると、自分が何者なのか悩み始めた。


 太郎は、他の人より皮膚が固く、動きがカクついており、密度が同世代の2倍近くあった。


 両親はかつて、工房を都で構えて職人をやっていたというが、何を作っていたのかいっこうに教えてくれなかった。


 太郎の悩みは日に日に増していき……そして、ある川の水が少なくなり始めた日の晩




 太郎は、スリープ演算モードに移行した。




「妻……昨晩から太郎がスリープ演算モードに入り続けている……心配だ」


「構わん。あの子もできてから早13年、その挙動は仕様の範囲内だ」


 元からくり人形職人であった太郎の両親は、スリープ演算モードに移行した太郎……否、自我搭載系息子型からくり人形『TA60』を優しい目で見つめ始めた。

 

 太郎の正体は、からくり人形職人だった夫婦が自らの子供として作り出した自我搭載系息子型からくり人形『TA60』であった。


 ちなみに、妻が自我回路を、夫が外見を作り上げた。


 TA60は悩みレベルがMAXになるとスリープ演算モードに移行し、長期間にわたって高い演算能力で自らの悩みと周囲の悩みの解決方法を考え続けるのだ。

 

 


 TA60がスリープ演算モードに移行してから3年間、村では色んな事が起きた。


 洪水で川の流れが変わって村の畑が潤わなくなったり、鬼に金品財宝を奪われたりした。


 しかし、TA60はスリープ演算モードを辞めなかった。


 どう見ても寝て居るようにしか見えないTA60を見て、人々は口々に「眠りすぎ太郎」「ノンレム睡眠長すぎ太郎」などと揶揄した。


 だが、その間にもTA60は人々の話を最低限耳に入れながら、演算を続けていた。




 そしてある日、ついにTA60のスリープ演算モードが終わり、眼を見開いた!


 そして、第一声。

『吾輩は、人間ではなく、からくり人形である』


 3年に及ぶ思案しあんの末、ついにTA60は自力で正体に気付いたのだ。

 

「太郎……!ついに目覚めたんだね……」


『父さん、早速ですが吾輩に紙をください。今から川の流れを元に戻すための土木工事の計画案を書きます。』


 父が紙を持ってくると、TA60は機械らしい精密な地図を書き記し、工事で作る堤防や工事にかかる予算などを次々を書き記していった。


「素晴らしいじゃないか、太郎。さすがは我が息子だ」


『母さん、褒めてくださり、ありがとうございます』


 


 その後、太郎の案を元に堤防の建設が行われ、川の流れが元に戻ったことにより、村の畑はふたたび潤うようになった。


 堤防が出来た年は久々に豊作になり、TA60を中心に大規模な収穫祭を行った。




「みなさーん!鬼に奪われた宝、取り返しましたよっ!」


 祭りの最中、1人の少年と犬、猿、雉が、かつて村から奪われた金品財宝を積んだ荷車と共にやってきた。


 半ばあきらめた財宝の帰還に、村人たちは湧きたった。


 村人は彼らが突きつけてきた「財宝の時価の1%に相当する報酬」もこころよく受け入れ、むしろ彼らにごちそうをふるまい、共に祭りを楽しんだ。


 そして、その中で猿犬雉太郎とTA60は知り合った。


『吾輩の名は太郎です。そういえば、あなたの名前はなんでしょうか?』


「俺?猿犬雉太郎!桃から産まれた後、サルさんやイヌさん、キジさんに育てられたからそう名乗っているんだ!」


『ほう……自らの経歴を元に名前を決めたのですね。その法則なら、さしずめ吾輩は「三年スリープ演算モード太郎」といったところでしょうかね』


「へぇ……長いけど、いい名前じゃん!」




 こうして、桃から産まれた太郎と、桃から産まれたと噂された太郎は、交友関係になったのであった。




 なんかいい感じの雰囲気になったので……完!

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タイトル未回収昔話シリーズ 四百四十五郎 @Maburu445

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