第2話 永遠の罰

最初の数十年は、狂気に満ちていた。


彼は何度も試した。独房で支給された粗末なシーツを裂き、首に巻き付けて何度も体重をかけた。息苦しさに意識が遠のいても、数分後には肺が勝手に酸素を取り込み、心臓が動き出す。食事を拒否し続けた。飢餓感が内臓を掻きむしり、骨と皮だけになっても、細胞は分解を拒み続けた。

看守たちは無表情だった。彼らにとって、ユキトはただの生きた、永遠の罰の象徴に過ぎなかった。

不死身処置は、肉体の破壊を防ぐが、苦痛を消すわけではない。何世紀にもわたる飢餓の苦痛、閉鎖空間の精神的な苦痛がユキトを襲った。しかし、それすらも彼を狂気に引き込むには至らなかった。彼は永遠に、明晰な意識を持ったまま、その苦痛を味わい続けるのだ。


時が流れた。看守の顔ぶれは何度も入れ替わり、外の世界の政変や文化の移り変わりは、新聞の小さな記事として時折彼の耳に届くだけになった。

そして、六百八十年が経過した頃、処置の「限界」が露呈し始めた。

不死身処置は、ユキトの細胞を「その時点の最適状態」に保つことを目的としていた。しかし、それは不可逆な老化をも停止させる技術ではなかったのだ。

最初は視力の低下だった。次に、記憶力の減退。やがて、皮膚は弛緩し、シミが増え、髪は抜け落ち、背骨は曲がった。

「永遠」は、彼をただ老いた状態で固定し始めた。

彼はもう、自力で立ち上がることができなくなった。骨は脆くなり、関節は石のように固まった。彼は、シーツの上で呻きながら寝返りを打つことすら、看守の手を借りなければできなくなった。

彼の身体は、九十歳を超えた老人の、永遠に病気にならない状態で固定された。


「水…」


ユキトの口から漏れる声は、微かな、乾いた空気の音だ。呼吸器系は機能している。病気ではない。だが、全身の筋肉が衰弱し、肺活量が落ち、唾液腺の分泌も減っている。

看守が、ストローのついたコップを彼の唇に近づける。ユキトは喉を鳴らして水を飲んだ。

刑務所に収監されて、もう千二年が経っていた。

彼の脳は、膨大な時間を記憶の砂嵐として保持している。愛する者の顔。彼が犯した罪の、鮮烈な記憶。そして、過去何世紀にもわたる、暗闇と独房の壁の記憶。

彼は死ぬことはできない。

苦しみから解放されることもない。

ただ、寝たきりの老人の身体で、永遠に天井を見つめ、過去を反芻し、未来のない時間を待つだけ。

ある日、若い看守が彼の独房を訪れた。若者にとって、ユキトは伝説上の人物だ。


「大塚ユキト。あなたは、もう何世紀もここにいますね」


ユキトは、か細い声で答えた。


「死…ねない。それが…私の…罰だ」


看守は眉をひそめた。


「あなたの罪は、すでに忘れられつつあります。ですが、この刑罰は…あまりにも、長い」


「違う…」ユキトは目を細めた。衰弱しきった指先を、わずかに震わせる。


「…私の身体は、老化で…動けないが…私の意識は、永遠に、千年前の…あの日のまま…だ。私は…自分の罪から、一瞬も…目を逸らせない」


看守は沈黙した。ユキトの虚ろな眼差しは、彼の肉体が体験した永遠の拷問を映していた。

ユキトの永遠の罰は、身体的な衰弱ではなく、意識だけが永遠に鮮明に残ることだった。動かぬ老体という檻に閉じ込められながら、彼の精神は、愛する者、過去の罪、そして「死」という救済の不在を、果てしなく、一瞬の休みもなく見つめ続けるのだ。

天井の染みを、ユキトは瞬きもせずに見つめる。

今日も、彼は生きた。明日も、彼は生きる。永遠に。


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