第6話

男は気絶した。

僕と白井は、屋上の隅で息を整えた。

「助かった」

白井が言った。

「あなたの能力、思った以上に応用が利くのね」

「たまたまだ。足と床を繋ぐことを、咄嗟に思いついただけ」

「それが才能よ」

白井は自分の首筋を見た。

傷が一本消えていた。残り四本。

「私は空間を切るのに一本使った。あなたは?」

「骨を治すのに一本、足と床を繋ぐのに一本。残り五本」

「五本か……」

白井は空を見上げた。

「狩人は、まだいる。この男だけじゃない」

「何人いる?」

「分からない。でも、能力者を狩ることで傷を増やせるなら——増え続ける。殺せば殺すほど強くなる」

僕は考えた。

僕たちの傷は、生まれた時から決まっている。

二十回。それ以上は使えない。

だが、狩人は違う。他の能力者を殺すことで、傷を増やせる。

それは——不公平だ。

いや、不公平なのではない。

僕たちが知らないだけで、「傷を増やす方法」があるのかもしれない。

「ねえ、白井さん」

「何?」

「『繋ぐ』と『切る』を組み合わせたら、何かできると思う?」

白井は首を傾げた。

「例えば?」

「僕が自分の傷を『切り離して』、白井さんに『繋ぐ』とか」

白井は目を見開いた。

「傷の……移植?」

「分からない。できるかどうかも分からない。でも——」

僕は自分の掌を見た。

五本の傷。

これは「能力の残量」だ。

能力が「傷」という形で可視化されているなら、傷を操作することで能力を操作できるかもしれない。

「試してみる価値はある」

白井が言った。

「でも、リスクが高い。失敗したら——」

「分かってる」

僕は頷いた。

「だから、今はやらない。もっと情報を集めてから」

白井は微笑んだ。

「慎重なのね」

「残り五回しかないからな」

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