第5話
翌日、狩人は現れた。
昼休み、屋上で白井と落ち合った時、彼はそこにいた。
「見つけた」
二十代半ばの男だった。スーツ姿で、会社員のような風貌。しかし、目だけが違った。獲物を見る目。
「十三人目と十四人目。二人まとめてとは、効率がいい」
男の右腕には、傷が無数にあった。
数えきれない。三十本? 四十本?
「お前の能力は何だ」
白井が問うた。
「『壊す』。触れたものを、粉砕する」
単純な能力だった。だが、傷の数が多い。つまり、それだけ多くの能力者を殺してきた。
「制限は?」
「一度に壊せるのは、触れている面積だけ。だから——」
男が動いた。
速い。
僕が反応する前に、男の手が僕の肩に触れた。
「死ね」
激痛が走った。
肩の骨が砕ける音が聞こえた。
僕は叫びながら後ろに倒れた。
「綾瀬くん!」
白井が叫んだ。
男は白井に向き直った。
「次はお前だ」
肩が砕けている。
痛みで意識が飛びそうだ。
だが、考えろ。
僕の能力は「繋ぐ」こと。
砕けた骨を繋げば、治る。
だが、それには傷を一本使う。残りは六本になる。
使うべきか?
いや、今は使うしかない。死んだら意味がない。
僕は自分の肩に手を当てた。
「繋ぐ」
砕けた骨片が再結合する感覚があった。
痛みが消えた。
右手の傷が一本消えた。残り六本。
「——動ける」
僕は立ち上がった。
男は白井と対峙していた。白井は後ずさりしながら、男との距離を保っている。
「『切る』能力か。面白いな」
男が言った。
「だが、切るには触れる必要があるだろう。俺に触れる前に、お前の腕を壊す」
「させない」
白井が空を切った。
何もない空間が、裂けた。
「——空気を切れる?」
男が驚いた。
「正確には、空間を切る。触れなくても、視認できれば切れる」
白井の目が鋭くなった。
「ただし、傷を一本使う」
空間の裂け目が、男に向かって飛んだ。
男は横に跳んで避けた。
「なるほど。遠距離攻撃か。だが——」
男が地面に手をついた。
「壊す」
屋上のコンクリートが砕けた。
足場が崩れ、白井がバランスを崩した。
男が跳躍した。
白井に向かって——
「繋ぐ!」
僕は叫んだ。
男の足と、崩れたコンクリートを繋いだ。
男の動きが止まった。足がコンクリートに固定されている。
「なに——」
「白井さん!」
「分かってる!」
白井が男に駆け寄った。
「切る」
彼女の手が、男の首に触れた。
男の首は——切れなかった。
だが、男は崩れ落ちた。
「何を……した……」
「能力との繋がりを切った。あなたはもう、何も壊せない」
白井は冷たく言った。
「ただの人間に戻っただけ」
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