第2話
最初に能力を使ったのは、五歳の時だ。
母が大切にしていた花瓶を割ってしまった。叱られると思って泣きながら破片を集めていたら、破片同士がくっついた。
継ぎ目のない、完璧な修復。
母は気づかなかった。僕も、自分が何をしたのか分からなかった。
ただ、左手の傷が一本消えていた。
能力の「制限」を理解したのは、十歳の時だ。
僕は調子に乗っていた。
割れた皿を繋ぐ。ちぎれた紐を繋ぐ。折れた鉛筆を繋ぐ。
便利だった。何でも直せる自分が、特別な存在に思えた。
そして、十本目の傷を使った時——何かが変わった。
十一本目を使おうとしても、何も起きない。
左手の傷は全て消えていた。
僕はパニックになった。能力が使えない。もう何も直せない。
三日後、右手に新しい傷が現れた。十本。
僕は安堵した。そして、理解した。
傷は「移動」したのではない。僕の「能力」そのものが、左手から右手に移ったのだ。
つまり、僕が生涯で使える回数は「二十回」。
既に十回使った。残りは十回。
——いや、違う。今は七回だ。
十三歳の時、僕は取り返しのつかない失敗をした。
飼っていた犬のコロが、車に轢かれた。
僕は泣きながらコロを抱きしめ、「繋がれ」と念じた。裂けた腹が閉じ、飛び出した内臓が戻り、傷が消えた。
コロは目を開けた。
しかし、コロは動かなかった。
心臓は動いている。呼吸もしている。目は開いている。だが、意識がない。僕を見ても、尻尾を振らない。名前を呼んでも、反応しない。
三日後、コロは死んだ。
正確には「止まった」。心臓が止まり、呼吸が止まり、目が閉じた。
僕は二回分の傷を使って、コロの「肉体」を繋いだ。だが、「何か」——おそらく神経の接続か、あるいはもっと別の何かを、繋ぎ損ねたのだ。
僕は理解した。
僕の能力は「物質」を繋ぐことはできる。
しかし、「生命」を繋ぐことは——保証されていない。
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