第2話
第一章 赤い糸(彼)
それから、何度も転生を繰り返した
彼女と出会えた人生、出会えなかった人生
一瞬だけでも交われたなら
それだけで幸福だった
この時代の俺は烏
彼女は裕福な家の一人娘として産まれた
彼女は周囲から愛されて、
人を悪意を知らないままに育った
彼女の周りを飛び回り、彼女の幸せを見守る
カァ、と何度呼びかけても
彼女が俺をその瞳に映す事はない
それでも、美しい石を見つけては
嘴で咥え、彼女の部屋の出窓まで届けるのが日課であり生き甲斐になっていた
窓を開け、彼女が俺からのプレゼントを見つけると
ふっと頬が綻ぶ
その表情が見れただけで俺はもう…
ある年の冬、彼女の結婚話が持ち上がった
それは彼女にとっても、俺にとっても俄かに信じがたい話だった
その日から彼女は窓際で1人涙を流すようになった
俺はせめてもの慰めに
今までより多くのより美しい石を届ける
だが、頬を伝う雫を拭う事はできない
空の上から見つめることしか出来ない
彼女の婚約者となった男は性根の腐った汚らしい男だった
この結婚も、彼女を愛しているからではない
彼女の実家の財力とコネが目当てだった
今の彼女には俺以外に愛する男がいる
愛し合ってはいるが身分違いの為、一緒になる事は叶わない…らしい
ソラというその男にも腹が立つ
俺がその立場になれるのならば
たとえ彼女が望まないとしても
彼女を連れ去り
こんな不幸しかもたらさない結婚から救い出し
幸せにする
あいつにはそれが出来るはずなのに!
白無垢が仕立て上がったある日
ソラが拵えた
真っ赤な振袖を身に纏った彼女は
まだ陽も明けきらぬ暗闇の中
ソラと手を取り合い、町の外へと逃げ出した
遅ぇんだよ
空の上から彼女の行末を見護るため
俺も2人の後を追う
誰も知らない場所で
慎ましく幸せに暮らしてくれればそれでよかった
なのに、何故…
彼女は、
俺と繋がっていたはずの赤い糸の端を
ソラの小指へ結びつけ
微笑みを浮かべたまま
まだ暗い海の中へと消えてしまった
2人を…彼女を追うように
真っ黒な翼を広げ、
戸惑う事なく冷たい水面へ身を投じる
待ってくれ!
俺も…!
白い水飛沫にもがきながら
少しでも彼女に近づくように
糸の千切れた指は水を掻いた
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