骸骨館の殺人
推草風時
序章 約束の国は叶わない
やあウェンディ!今日の夜も一日元気に過ごせていたかな?
僕は元気にしていたかって?もうウェンディったらおかしなことを聞くなー。
僕はもちろん、ネヴァーランドで海賊のフック船長と戦いに明け暮れる日々を過ごしていたさ。もちろん恋人であり親しき友人であるタイガー・リリーとの親睦も忘れてはいないさ。
でも最近、僕達の暮らすこの国ではネバーランドの住人を謳う恐ろしい首狩り魔が
妖精の谷や首吊り人の木の周りをうろついているらしいんだ。
こないだだってロストボーイズの一人が首を刈られた状態で見つかるし、あんなにフック船長が好きだったワニも海岸で骨になって打ち上げられているしね。
どっちにしても僕達は大人になれない子供だからさ、大目に見てよね?
それにしてもずいぶん大きくなったね。まるで大人みたいだ。
え、こんな私でもまだネヴァーランドに行けるのかって?もちろんウェンディならいつでも大歓迎だよ!!
僕は君たちみたいに年を取らないけど、思考の凝り固まった大人たちよりは断然人生を楽しんでいる方だからね!!
ティンカーベル!!大きくなった彼女にもう一度、どこまでも飛べる翼を授けてあげて。
ほうらひとたび魔法の粉がかかればどんな人でも約束の国への切符は持てるんだ。どんなに後悔している過去でも不安な未来だって変えられる奇跡のパウダー。あなたも夜更かしの夢の魔法にかかってみないかと広めたいくらい素敵な想い出になる。
さあ、心の準備はいい?一歩踏み出る勇気をもって飛び出そう!!
さあ行こう。約束の国ネヴァーランドへ!!
ロシア連邦サマラ州にある古城型リゾートホテル『骸骨館』。かつてこのホテルでは日露戦争中に戦死した兵士や捕虜である日本人を収監するため、ホテルの地下深くに人体実験室を設け、被検体となる人間を無理やり解剖し、摘出した臓器や血液を戦争の兵器や武器糖などに活かしていた。だが、ロシア兵たちが大日本帝国に勝てることはなく、ただその武力と殺意に目が眩んでいくばかりである。
日露兵から45年の歳月の中、オスカー・ジャクソンは一人悩んでいた。
戦争相手である日本兵を出し抜くにはどうしたらいいか、持っている血液のサンプルだけでは帝王アレクサンドル3世に顔向けできずにいた。どうすれば世界各国に存在する日本兵の残党をこの世から抹消できるのか。
彼の出した答えは簡単だった。
オスカーは自身の経営するホテル『骸骨館』に日本兵と手を組んでいそうなロシア人を連れ込み、オカルトツアーの支配人を装っては彼らを13の部屋に割り振ることによって、ホテルに紛れ込んでいる裏切者を選別することができる。
そして客がホテルチェックアウトする前、ホテルマンに地下室に誘導するよう仕向け、客である彼らが地下室に入った瞬間、背後から大麻入りの布を吸わせ、監禁。
3日ほど衰弱させた後、囚人である彼らが何も吐かなければ無事に”解放”するとそう計画したのである。
だがこの計画には重大なミスがあった。彼はそのミスに気付かず、計画を実行。
その後『骸骨館』は政府から家宅捜索及び営業中止の命令を掛けられ、計画に失敗したオスカーはロシア初の凶悪犯罪者として、国民の目の前で処刑された。
そんな彼と同じ過ちを繰り返しているのか、私こと山崎恵梨香もあるミスを犯していた。
2021年8月17日 日本 午前8時34分 神奈川県横浜市妙祭区 雀宮探偵事務所にて
「ロマンス詐欺に遭いました」
「はい?なんだって?」
冥土館の惨劇から約三年後、死んだはずの私はなぜかイギリスの国立病院で目が覚め、病院のベッドの隣には親友であるフランソワーズが花束を抱えて眠っていた。屋根裏部屋である冥土館の最上階から地面である地上までは約7ⅿ程もあるというのに。それなのに私はこうして生きている。
「だからロマンス詐欺に遭いました。ロシアにいるオスカーという男性から」
当然、私のメイド服に付着している血痕からは手に掛けた者のDNAが検出されており、イギリス警察の人達からは何度か取り調べを受けるも、証拠と動機が揃わず、
最高裁の判決に至っては無罪確定になるとも言われていた。
「そのオスカーっていう奴は新米探偵であるお前に投資しろとそう言ってきたのか?」
だが、冥土館から運び出された死体の数を世間のマスコミに公開したとたん、全盛期類も見ない残虐な殺害事件だと新聞やテレビ局に取り上げられ、挙句の果てにはイギリス王室に警察の所持している報告書や書類を突き出すまで言い出すものもいた。このことに警察は仕方なく、一連の事件の犯人であるこの私に再捜査を申し出た。だが捜査の結果は同様。エリノアという役職に縛られた私の犯罪は証拠不十分で不起訴となった。そんな時、ふいに彼からの誘いを思い出したのはつい最近の事である。
「フランソワーズの話によるとオスカーという男性は日露戦争中、とあるホテルで客を拉致し監禁する事件を起こした後、犯罪がバレて政府に処刑されたようです」
あれから随分と時が経った頃、イギリスにいるフランソワーズからロシア人男性から詐欺電話を受けていると言われた。当然彼女だからそんなことはないと思ってはいたものの、親友の困りごとを解決することが先決だと思った私は、そのロシア人男性のいる場所への逆探知を試みた。効果は覿面。それ以降、親友を欺く電話がかかってくることはなかった・・・はずだった。
「死んだ人間がどうしてひよっこであるお前なんかに色仕掛けを仕掛けようと思うんだ?訳が分からねえ・・・」
翌朝、寝泊まりしている民宿からある一本の電話が掛かってきた。その時は女将さんからのチェックアウトの知らせかと思って電話に出たが、電話の相手はロシアで廃ホテル宿泊ツアーを経営しているサマラ州の男性からだった。彼は親友であるフランソワーズを救った栄誉のある人間に惚れたと言い、私に多額の奨励金を払うと約束してきた。日頃から欺瞞や殺人などの環境にいた私から見てみればロマンス詐欺などという色物に屈しはしないとそう鷹を括っていたが、彼と話せば話すほどその魅力に惹かれ、ついには奨励金を受け取るとそう約束してしまったのである。
「本当にすみませんでした。まさかこんな旨い話に裏があるとは・・・」
この話を事務局長であるスズメミヤさんにしたところ、失望したかのような目でこちらを見てきた。だが恩師であることもあってか、助手の犯したミスを拭うように、わこう私に提案したのである。
「それなら明日、親友の言うオスカーに会いに行ってみるか?」
偶然か、それとも毅然か。彼のおかげで手持ちのお小遣いを失わずに済みそうであると一安心した私であった。
骸骨館の殺人 推草風時 @afdis6205
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