懐かしい響き

「!!この音は!」


私は音の発生源へ吸い寄せられた。


着いた先には黒山の人だかり。

どうにか人をかき分け最前列に出ると

こそにいたのは、2人組の路上パフォーマー。


1人は赤いラインの入った、狸の面を被った男。

彼が手にしているのはチェロ。

もう1人は緑のラインが入った

狐の面を被った男。

彼が手にしているのは三味線だった。


全く違う2つの音色。

一見すると噛み合わないように思うが

硬く強い三味線の音を

柔らかく穏やかなチェロの音が包み込み

それはそれは見事な調和と

美しい旋律を奏でていた。


まさか日本から遠く離れた異世界で

こんな素晴らしい演奏を聴けるとは思わず

しばし聴き惚れた。


それに、この世界観をかんがみても

三味線が存在していたことに驚かされた。


2人の前には、投げ銭用に置かれた

蓋の開いたチェロケース。

その隣には、このデュオの名前が書かれた

プレートが立っていた。


し み ず

4ー3ー2 

狸:ルビアス

狐:サミーロ


し・み・ず!?

こ、これは偶然か!?たまたまなのか!?


1人で動揺し、演奏から気が逸れた時

あることに気付いた。


この2人、人間じゃない。

受ける印象はうちのドラゴン達に近い。


ということは、この2人は獣人だろうか?

だとしたら、色々と説明がつく。


それとさっきから、演奏を聴いていて

妙に体が軽いというか、活力が湧くというか…。


うーん!

み・な・ぎ・っ・て・き・た!

笛じゃないのに!

これは、色々話を聞いてみたい。


「あいつら、生きてたんだな」

「そうね、元気そうで何よりだわ」


ヴェールとヴィータの会話を聞く限りでは

やはりあの2人はかつての契約者の従魔のようだ。


演奏が盛況のうちに終わり、観客が解散する中

私達は、彼等に近寄り声を掛けた。


「あの!素晴らしい演奏でした!できればでいいんですが、少しお話をさせてもらえませんか?」

「ありがとうございます!…おや、貴女はもしや…」


私を見て、何かに気付いた2人。

そして私の後ろにいたヴェールとヴィータを見て

驚きの声を上げた。


「やはり神様!ご一緒ということは、貴女は当代の契約者の方ですね?」

「どういうことでしょう?僕達、今まで世界中を旅して回って来ましたが、大きな事件はこれと言って起こっていませんでしたが…」


……今、すごく大事な話を聞いた気がする。

彼等が

何も起きていないと言っている。


ましてや、彼等は従魔。

神の力の一端を持った彼等の

旅をしている時間が、短いとは考えにくい。


私は2人の今夜の予定を聞き

何もないことを確認すると

事情を説明し、夕食会に参加してもらうように

頼み込んだ。


了承を得たところで、通信球に魔力を流し

レオさんに夕食会に2人追加の旨を伝えた。


そして5人で宿に戻り

1階の食堂でお茶を飲みつつ

気になっていたことを聞いてみる。


「もしかして、2人の主って『しみず』さんって名前だったりした?」

「おや、よくお分かりになりましたね。そうです、我々の主は家名がシミズだと」

「主様は楽器に精通していた方で、特に弦楽器に関しては、知識も演奏も素晴らしかったんですよ」

「なので、我々にもそれぞれに一番向いている楽器と、奏法を教えて下さいました」


その結果、4弦のチェロと3弦の三味線

そして2人だから4−3−2と書き

主の名を冠して「しみず」と読ませる

デュオを組んだ。


そして主が守ったこの世界の平和を見守るため

路上パフォーマーとして

旅をしているということだった。

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2026年3月14日 20:00
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異世界の神はインモラル 崖っぷちのアリス @norikae-from-narou

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