乗り物の惑星

@karatachi23

乗り物の惑星

とある宇宙人が地球にやってきた。地球はまた非常に奇怪な惑星で、そこに暮らす知的生命体はみな、文字通り常に乗り物に乗っている。有機物製の乗り物は頑丈ではないがすぐ完全に使い物になる訳でもない。なんとも中途半端な作りだが、その乗り物に乗らないとニンゲンは地上では動けないのだ。もっと奇妙なことに、長旅(あくまで地球人基準では)をする時は、有機物の乗り物を動かして機械の乗り物に乗り込む。


地球人は栄養を摂取することで燃料を入れ、動作が鈍らないよう定期的に動かし、調子が悪いところがあればその都度修理し、常にメンテナンスを行うことで乗り物を維持している。宇宙人にとって、それは大変物珍しい光景だった。


多くの地球人は乗り物をうまく乗りこなし、それなりに楽しく運転している様子だった。しかし地球に滞在して観察するうちに、どうやら中にはそこから降りたがっているニンゲンがいると宇宙人は気づいた。


最初は、外れの乗り物に乗っている者だけだろうと思った。乗り物の性能とデザインには当たり外れがあり、いくら丁寧にメンテナンスを行ってもすぐ故障してしまう代物。見栄えが悪いものや、客観的に悪くはないが乗り手の好みではない乗り物もある。毎日使うものがポンコツだったり自分に合わないなら、降りたいと思うのも当然だろう。


しかし、どうも必ずしもそうではない様子だ。そこそこ性能がよかったり、他より優れた乗り物であっても、運転をやめたくて仕方ないニンゲンもいる。どんな見た目や性能であろうと、乗り物そのものから降りたがっているのだ。


運転をやめたい地球人たちは、あらゆる手段で乗り物の外に出ようとするが、そう簡単には出られない。乗り物と乗り手がもうぼろぼろになっていても、外へ脱出できるほどには壊れない。あと少しで出られそうでも、周りのニンゲンたちが脱出を阻むのだ。


そして乗り物から降りたいのに降りられない乗り手たちは、みな苦しそうに涙を流し、怒り悲しんでいた。


その様子を見て、宇宙人は心を痛めた。地球以外の惑星の宇宙船やその他の乗り物には基本的にいつでも自由に乗り降りできる。降りたい者を無理やり乗せ続ける、乗りたい者を無視する、乗り続けたい者を強引に降ろすといったことはしない。それなのに、同じ宇宙にあるはずのこの惑星では、自由を奪われている者たちがいる。

いくら異なる星の者たちとはいえ、何とかしてやらなければ。

宇宙人はすぐに行動を起こした。外に出たがっている地球人の乗り物に、携帯破壊光線照射器の光を当てたのだ。乗り物は一瞬で塵と化し、乗っていた者は勢いよくひゅーん!と空に昇っていった。宇宙人は地球のあちこちを巡り、一つ、また一つと、外に出たくて苦しんでいる者たちを解放していった。 


数ヶ月後、未確認生命物体が連続無差別殺人事件の容疑者として逮捕された。宇宙人は収監され、「人殺しだ!」「エイリアン襲来の前兆か!?」と多くの人は恐れおののいた。しかしオンラインでは一部の人間たちが減刑嘆願の署名を集めている。

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