艦装少女-フリートレス-

来賀 玲

プロローグ : それは海からやってきた







 地球外生命体との初めての接触は、海からだった。



 西暦2304年

 太平洋、大西洋、インド洋、地中海、黒海、

 ある日突然、世界のあらゆる海の中心に時空の裂け目が次々と現れて、

 そして、奴らが襲ってきた。



 奴らは、人魚のような姿だった。

 奴らは、笑いながらあらゆる生物に接触、同化して数を増やしていった。

 奴らの身体で巣が生まれ、そこから奴らが増えて拡散していく。

 奴らには、通常火器が効かなかった。


 そして、わずか1年で人類は制海権を失った。


 極東の先進国『陽元ひのもと』は、


 Dimension

 Entered

 Enemy,from

 Parallel world


 略称『D.E.E.P.』とこの侵食型地球外生命体を呼称。


 そして陽元の呼びかけにより太平洋を挟んだ安全保障条約を結ぶ同盟国『ステイツ』から始まり、大西洋の復活した海軍国家『ヴィクトリア』、フランキス、ゲルマン、ロマリアを中心とした『エウロパユニオンEU』諸外国、そして北の大国『ノーシア』と、世界各国と初めて歴史的な軍事同盟を結んだ。


 何よりまず、海の脅威に対するため、あらゆる手段を検討していった。





 ───希望もまた、海にあった。

 取り残された海軍たちによりソロモン諸島沖の深海で見つかった別の地球外生命体が送られる。


 軟体動物に似た、青く光る血液を持つ小さな生き物は、D.E.E.P.細胞組織を捕食できた。

 その体液、特に血液にはD.E.E.P.の他の生物を侵食して同化する細胞を一瞬で液状化させる特殊な細胞が存在したのだ。

 同時に、ある種の化合物との反応でこれまでの既知の


 ただし、ウィルスにその特性を組み込むことや、毒ガスの精製は不可能だった。

 生物・化学療法の兵器化は難航を極めたが、ある時それまでにない発想で新たな希望が生み出された。


 だったら、相手を殺す血液を生成できる大型の生物を作ればいい。


 それも、人の言う事を理解できる知能を持ち、

 可能ならば、その血液を兵器として使えるような。



 2つ目の地球外生命体『イーターブルー』の細胞は、大型生物とのキメラにはよく馴染んだ。

 特に人間の細胞とは、組み合わせの相性が良かった。ある程度の金属への拒否反応の低さも魅力だった。


 それは生命として禁忌かもしれないが、皮肉なことに手段を選ばなかった人類は簡単に神の真似ができた。


 遺伝子レベルで姿や能力を調整して試験管で作りながら、先天的に身体の一部を機械化が可能にし無線や高性能カメラの目、果てはマイクロコンピュータを脳に有した、生体メカ‪……‬あるいはその逆のメカ生体とでも言うべきものが作られた。



 彼女を人型に───それも女性型にしたのは、あくまでもその後の研究や改良に都合が良かったからだった。



 そうして生まれた彼女に与えられた武器は、彼女の血液を装薬にして撃ち出される、彼女の血液を込めた必殺の『砲弾』。


 今まで大型艦艇にしか搭載不可能だった砲を、彼女の自前のパワーと出力で振るう物。


 人間の身体では耐えられないあらゆる面でのオーバースペックのあらゆる兵装を人のサイズに圧縮し機動力を高めた『艤装ぎそう』を纏う彼女。


 それは、誰かがこう言い出した。


 人の姿の軍用艦艇。

 艦艇の力を宿した装備を振るう少女。


 艦装少女フリートレス、と。



 大西洋の伝統と歴史ある海軍国家であるヴィクトリアから、そして同名の同国女王から‪……‬何より彼の国にかつてあった『戦艦』から直々に同じ名前を与えられる。



 最初の艦装少女フリートレスの名は『ヴィクトリア』。



 初めて、D.E.E.P.へ勝った強力無比な火力と装甲を持った生きた軍用艦艇というべき性能の彼女の姿に世界は釘付けになった。


 やがて、世界各国の名だたる海軍国家達が、艦装少女フリートレス達を戦場へ投入し始めた。


 その彼女達に、かつてあった艦艇の名を与え、艤装も性能が許す限りはかの時代の艦艇に似せた意匠を施し始めた。


 なんの戦術的優位タクティカルアドバンテージもない、強いて言えば彼女達の人間を超える排熱を意識した服という事以外は、


 まるで大昔の、あるいはテンプレートと化した映えある衣装を着せていったのは、


 彼女達を『兵器』とだけで切り捨てるのではなく、



 人類の『希望』として、あるいはあの水平線の向こうへ刻む勝利を自国が掴むという『威信』を表すための物だったのかもしれない。



 戦いから10年、

 第二世代艦装少女フリートレスの象徴にして現在就役間近だった他のフリートレスを『第一世代』へ変えた存在である『ドレッドノート』が就役して2年、


 人類は制海権を取り戻しつつありながら、いよいよ敵の本丸たる時空の裂け目への突入を果たした。







 2314年、




『───ちら、朝日あさひ!!

 こちら朝日!!手身近かに言うけど‪……‬失敗した‪……‬!!


 負けたんだ‪……‬アタシ達は負けた‪……‬!!』




 それは、二度目の人類の敗北の年だった





          ***



「───それで、元から急増された命のせいで、まともな改修もできずに身体は戦闘にはもう向かない、中身が老化しちまったこ〜やって機械いじりが趣味の若ヅラおばあにさ、」



 やや癖っ毛のロングにかわいらしい顔に、油汚れと胸元が見えそうな汚れたTシャツ姿。


 その背中に巨大な作業用アームとクレーンを装着した少女が、この暗い部屋を占領する巨大な機械の配線を4つの腕を総動員して修理しながら問いかける。



「何でまた、そんな豆鉄砲を向けるのさ鬼威惨達?」



 その後ろには、銃を構える軍人達がいた。

 ただし、作業用の軍服ではあるが、ボディーアーマーなどを装備していない少し異様な姿である。



「豆鉄砲でも痛いはずだな、朝日」



 こちらを囲む三人の背後、後ろを急いで銃を構えて走る男達が朝日には見えた。


 慌ただしいと言うのに武装は完璧ではないのが不思議だった。

 今でも機械油以上に嗅ぎ慣れた、『戦場へ行く前』の匂いがする。


「‪……‬やだねぇ、まったく‪……‬お兄さんたち、戦う前には装備をしっかりしな。

 死ぬのは自分なんだよ?上官に教わらなかったかい?」


「‪……‬‪……‬ああ、後悔してるさ。

 だから頼むよ、朝日。

 あんたほどの英雄相手に脅しなんかしたくないからお願いとして聞いてくれ。


 朝日、お前の後輩のこの『艤装』、動かすのに協力をしてくれ!」



 男達は、皆銃を下げた。

 元から、朝日自身は見た目通りか弱い少女同然の自認なので───彼等の6.8mm60口径ライフルが通らない硬度の『乙女の柔肌』なのは置いておいて──抵抗する気はないが。



「‪……‬バカだよねぇ。バカばっかだよぉ。

 そもそも、この本物の『陸奥』そのまんまの姿、つまりは最新技術で作った『戦艦陸奥』そのものの『コイツ』を動かせだって?」








 ─────陽元、横須賀特殊兵装組立ドッグ


 内部、陸奥専用『超巨大艦装ギガンティックフリートライズ』用艤装内、補機機関室。


 そこで、陽元防衛海軍所属の男達は、工作艦装少女クラフトシップフリートレス朝日と向かい合っていた。



 ───ボボボボン、ドォン!!


 そして、近く太平洋の水平線には砲火の光が外からなら見えている。







「動かさなければ横須賀は終わるんだ!

 いや、横須賀だけじゃない、日本も!!」


「‪……‬なるひどねぇ。

 妙に近くの砲撃音以外はだいぶ静かなのはそう言うことかい?」



 無線封鎖。あるいは敵の妨害型かと疑っていた所だった。

 つまり今ここは戦場に程近い。



「聞いてくれ。上からの命令は陸奥を放棄し最終防衛ラインを引き下げることだ。

 首都機能を東京より下げる可能性もある!」


「何も聞いてないねぇ。

 あーあ、等々アタシゃ『退役』かねぇ?」


「『自沈』の間違いだろ!!!

 ボケるならもっと可愛いボケをしてくれよ!!」


「つまりアレかい?

 君らは、陸奥と共に最後の花を咲かせに来たってことかねぇ?」


「最後になるなら最後ではなくなるかもしれない方にかけるさ。

 アンタにだって生きててほしい。


 ‪……‬‪……‬俺たちは、アンタに救われて海軍に入ったんだ」



 朝日に向けられる目。それは真摯な願いを込めた目。

 そして、ありし日の自分を見つめていたはずの目なのは理解できた。



「‪……‬別にやらないとは言ってないさね。

 できないから、困ってんのさ」


 朝日は、ただ静かにそう言った。


「‪メインエンジンは陸奥自身なんだけどねぇ、この艤装の起動には補機側からの供給が必要だからね。

 安全装置さ。そしてその安全装置には、君らよりずっと階級が上の承認が必要か、」




「私がぶん殴るかです?」




 部屋の入り口にやってくる一人、いや一隻。

 長い黒髪ストレート、下乳もお腹も丸出しな白いセパレートセーラーは、第二種フリートレス専用戦闘服。



 その可愛らいい顔に憎たらしい歯を剥き出しの笑顔を見せる姿は、朝日も知るフリートレスの顔だった。



「夕立ちゃん、とうとう脱獄かい?」



 にこり、と彼女────駆逐艦装少女デストロイフリートレス、夕立は笑う。





「私の提督に頼まれちゃって。

 勝ちますよ、今回はね?」




「‪……‬乗せるのが上手いねぇ、最近の若いフリートレスは。


 それ言われちゃあ、元敷島型戦艦装少女バトルシップフリートレスとして、頑張んないとねぇ‪……‬!」



 朝日の背中の重厚なアームが、器用に部屋に鎮座する補機のスイッチを入れる。


 立ち上がる四角い画面。てのひらのマークは、将校以上の限られた人間の生体認証のみ受け付ける。



「遺伝子いじくりまわされて生まれたせいで、身につけたフリートレスの特殊能力、」



 その認証機の前に、夕立は拳を鳴らしながら近づく。


「とりわけ、私のって性格に反比例して妙な能力なんですよねコレが」



 ぐっ、と右拳を振りかぶる。



暴力ランページ

 オーソライズァッッ!!!!」



 バキィン!!!

 認証画面に拳を打ち込み、液晶が割れた。

 同時に、認証を表すピピッっという音が響く。


 ガコン、と補機出力装置のピストンが回転し始め、動力を伝え始める。


「動いた‪……‬!」


「相変わらず壊してんのか、それとも電子的に認証されたのか」



「両方ですよ海士さん方。

 私はぶっ壊した物は物理だろうが電子だろうが呪いだろうがロックを外せますので。


 つまり、私にこじ開けられないものはないんです」



 さて、と夕立は背中を向ける。


「じゃ、今度は戦場をこじ開けてきますので」


「‪……‬できれば、ここの機関室を手伝ってほしいんだけどねぇ?

 おばあ戦艦一人じゃねぇ?」


「そのために我々です。

 護衛艦にて、機関室を任せられておりました」


「先程は失礼しました!

 機関士二名、着任許可を!!」


「あらあら、人間さんの方が偉いんだぞぉ?

 ま、補機は補機でじゃじゃ馬だから助かるね」


「‪……‬夕立さん、ここは」


「ありがとう、海士さん方。

 じゃ、夕立は艦隊に合流しまーす!」




 軽く敬礼して、夕立はその場を離れる。

 戦いのために、海へ。



          ***

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