忘年会後の異世界転生?

すずと

忘年会後の異世界転生

 12月といえばクリスマスやら大晦日やらと、イベント盛り沢山。


 そんな12月のイベントの一つ、忘年会。


「今年も一年がんばりましたね。来年もがんばっていきましょ」


 なんて薄っぺらい挨拶から始まり、酒を酌み交わす、あれだ。

 

 前置きやらなんやらは良いからさっさと酒を飲ませろ。肉を食わせろ。


 そんな内心の中、グダグダな挨拶が終わり、「では──」と挨拶が終わって、酒に手を伸ばした瞬間。


「続いて◯◯さん(会社の偉い人)お願いします」


 あばばぁ……。


 この時、社員全員がお笑い芸人みたいに転けそうになった。そして一致団結した。


 一致団結した我等は強い。


 挨拶が終わったと同時に乾杯をしたら、ゴクゴクの黄金の水で喉を渇きを潤す。


 この時、ビールは水分補給にはならないという事実を知っているのにも関わらず、


「くぅぅ。足りない水分が補われりゅぅぅぅ」


 なんて阿呆丸出しの言葉の後、肉を食そうとした矢先、自分の肉がなくなっているではないか。


 そう。目の前の奴(先輩)が食らっていやがる。


「てめっ。俺の肉食うなや!!」


「ああん!? 俺、先輩やぞ!!」


「じゃあ普段から先輩らしいことしてみろや!! ダボがっ!!」 


「なぁぁにぃぃ!? 言っちまったなぁ!! 先輩は黙って肉を食う!! 先輩は黙って肉を食う。後輩が泣いちゃうよぉ」


「なんでいつも仕事はおせぇくせに肉食うのは早いんだよ!!」


「あれ? 俺のネタは?」


「おめぇのじゃねぇだろうが」


 なんて、さっきの一致団結はどこへやら。最早目の前の、ノットしごでき先輩は勿論、周りの連中も敵である。


 飲まなきゃやってらんねぇ。


 周りは敵だらけだが、こいつ(ビール)だけは俺の味方だ。


 俺の血が黄金色に染まる。



「ぅぅ……」


 俺の中の水分が黄金色に変わった代償は大きい。


 忘年会が終わり、電車に乗って帰宅──したいけど、そう簡単には帰らせてくれない。


 俺の血が黄金色に染まった時、チェックポイント(トイレ)に寄らないと、身体の負荷が強過ぎて(リバースしないとホント無理)、死ぬ。


 各駅のチェックポイントを訪れ、血が黄金色になのを確認しつつ、ようやくと自分の家の最寄り駅へと到着。


 いつもの道を歩いていたはずが──


「あれ? ここどこ?」


 ふと気がつくと、俺は教会の前に立っていた。


 真っ白なチャペルが俺を蔑むように見下ろしてくる。


 どうして教会? 俺、いつもの道を歩いていたよね? え? なぜ? ホワイ?


「あ、わかった。俺は異世界転生したんだ」


 間違いない。ふと気がつくと教会の前。こりゃ完全に神に選ばれたんだ。


 そう思い、俺は夜の空に叫んだ。


「手からしじみ汁が出る魔法をくれ!!」


 俺の願いは冬の空に消えていった。


 そこで俺の意識は途絶えた。



 気がつくと見慣れた天井。


 記憶はある。


 忘年会。トイレ。教会。願い。しじみ汁。


「──ッ!?」


 記憶が蘇ると、頭痛が走った。


 なんだ? 魔法を手に入れた副作用か?


 なんて思いながらサンクチュリアへ駆け込む。


 そこで魔法を試したんだが……。


「ぜぇ、はぁ……誰が口からしじみ汁を出したいって頼んだよ。手からっつってんだろ、どちくしょうが。ぐふぅ──!!」


 俺は魔法を使うたびに、これが魔法じゃないことに気がつく。


「──頭いてぇ……完全に飲み過ぎた」


 魔法ではなく、ただの二日酔い。


 そう気がついた時、俺はちょっとだけ寒気がした。


「だったらあの教会は?」


 改めて言うが、記憶はある。あるからこそ、夜中に突如として現れた教会はなんだったんだろうか。


 もしかしたら俺は本当に異世界転生を果たしていたのではないだろうか。



「ふつーにあるやん」


 後日、少し気になって家の周辺を歩いていたら、いつもの道を少し逸れた住宅街に教会があった。小さな教会でなにをする場所かわからないが、俺は異世界転生を果たしてなかったことに少々肩を落として今日も会社へ向かった。



 世間は忘年会シーズン。羽目を外し過ぎると、俺みたいにトイレとお友達になったり、トイレをサンクチュリアと呼ぶようになったり、異世界転生したとかほざいたりするから、みんな注意しましょう。


 お酒はほどほどに。場を楽しむための潤滑剤。みんなで楽しく飲み会を。


 なぁんてトイレから発信しています(笑)



 ※このお話は作者が経験した実話です。

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