今年で四十路の冴えないオッサン、二度の追放を経て無自覚無双⁉ ~【神に愛され過ぎ】で加護不良だったと判明! ぬいぐるみ姿のモフモフ神様を仲裁してたら、いつの間にか世界を救う~

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第一章:二度も追放された俺が、【神様に愛され過ぎている】?

第1話 いや俺、人生二度目の追放直後だぞ



「――ダリス、お前はもうクビだ。荷物をまとめてさっさと失せろ」


 今年で四十歳になるという年。

 そんな言葉一つで、俺はどうやら十年も働いた鍛冶工房から追い出されるらしい。


「最初は小さな工房だったが、うちも成長し今や国屈指の大工房だ。なのにお前のステータスは、ずっと進歩なく『鍛冶:A』。加護補正でSやSSばかりのこの工房に、お前みたいな凡人は、相応しくないんだよ!」


 毎日金槌を振るい金属を鍛えているその腕は太く屈強で、ガタイが小さい訳じゃない俺は、ドッと胸を押されて倒れ込んだ。



 嘲笑と軽蔑の混じった目を向けられる。


 たしかに俺のステータスは、Aである。

 それは鍛冶だけに留まった話ではない。


 人類が努力だけで到達できる最高ステータス:A。

 しかしそれは才能がない奴の最高到達点というだけで、才能――つまり神から加護を授かっている人間は、簡単にその壁を超える事ができる。


 加護には色々な種類があるが、誰しも何かしらの加護は持っていて、みんなそれを活かして生計を立てている。

 大きな鍛冶工房ともなれば、自ずと鍛冶の加護を持つ人たちが集まってくるのだ。

 だからどうしても努力だけの俺じゃあ、仕事に着いて行くのが精いっぱいで……。



 俺には、加護がない。


 そんな人間は、殆どいない。

 だから基本的に、ただそれだけで存在自体を軽んじられる傾向にあった。


 でも俺は、散々苦労し、しかしそれを努力と工夫で切り抜けてきた……と思っていたのだが。


「商談も、素材管理も、炉や工房の掃除も、道具の手入れも、代わりにやる奴がいるとは思えないけど……」

「はっ! どうやら自分が価値ある人間だと思いたいようだが、そんなのやる事のないお前が無理やりに見つけてきた仕事だろ? 各自にさせればいいだけの話だ。お前にできたんだから、他にできない訳がない。たったそれだけで、お前が気にしている事はすべて解決だ」


 ニチャリという擬音が似合うような、嘲笑がふんだんに盛り込まれた笑みで見下され、俺は「……そうか、分かった」と静かに答えながら立ち上がる。



 人生二度目の追放だ。

 一度目の追放を教訓に、やれる事は全部やってうまく立ち回ってきたつもりだったが、どうやらあまり意味はなかったらしい。



 俺は「ふぅ」とゆっくり息を吐いた。


 努力しかできないのだから、努力した。

 その結果が、今の俺のこのステータス――ステータスとして表示されるすべての項目をAまで上げた、『ステータスオールA』状態だ。


 お陰でできる事も増えた。

 陰ながら工房を支えてきたつもりだった。

 が、要らないというのなら、仕方がない。



 妙に、ホッとした……とは少し違うが、肩の荷が下りたような感じがした。


 思えば、もう四十だ。

 ステータスももうこれ以上上がらないのだし、やれる事はすべてやってきた。


 ならもういいんじゃないか?

 これからは、穏やかな生活を送っても。



 一度目の追放の時のような絶望も悔しさもないのは、年を取ったからだろうか。


 肩肘張らず、必要とされるために無理をするような事もない。

 美味い物を食って、のんびりする生活。

 そういえば今まで努力、努力で、そんな生活とは無縁だった。



「……あの森なんか、いいかもな」


 住み込みだった工房から、荷物を半ば無理やりに押しつけられて、追い出されて。

 空を見上げてそんな事を呟いた。


 空は青い。


 心当たりの場所は、一度目の追放前――冒険者時代に見つけた場所だ。


 小さな集落しかない場所だが、皆温和でいい人ばかり。

 若者が外に出て行くもんだから空き家が増えて困るって、十数年前は言っていた場所。


「まぁ、ちょうどいいのがなけりゃあ、立ててもいいしな」


 森なら土地はあるだろう。


 幸いにも、俺は建築ステータスもA。

 一人暮らし用の小さな小屋くらいなら、時間をかければそれなりのが作れる。



 独身男のいいところは、身軽なところだ。

 俺は基本的に、決めたら即行動が昔からの信条だった。


 十年ぶりに、王都を出た。

 新天地を目指して歩く足取りは、軽く清々しいものだった。



 ◆ ◆ ◆ 



 四十路になるまでにあらゆる経験をしてきたが、やはり新天地に来ると背筋が伸びる。


 特に骨をうずめようという気で来た地、ちょうどよくあった空き家の隣人に引っ越しの挨拶をするとなれば、緊張度もやはり上がるというもので。


「ご近所づきあいっていうのは、最初が肝心だからな」


 コホンと咳ばらいをし、佇まいを正す。


 以前の引っ越しの時には初っ端から失敗し、そのせいで大変な目に遭った。


「今度こそうまくやりたいものだ」


 別に仲良くする必要はない。

 せめて、トラブルのない間柄に。


 そう思いながら、じっとりと汗を掻いた手の平を拳に閉じ込め、目の前の木の扉をコンコンとノックし――。


「はーい。ちょっと待って……うわぁああ!!」


 ドンガラガッシャーン、と家の中から聞こえた。

 大丈夫だろうか。


「はいはい、お待たせ。何の用事――って、おや?」


 ガチャリと開いた扉の先に姿を現したのは、黒いローブ姿の女性だった。


 俺より十五は若いだろうか。

 何かの拍子に傾いたらしい眼鏡をかけ直す彼女は、化粧っ気こそないが綺麗な子で。


「初めまして。俺、今日から隣に引っ越してきた――」


 自己紹介と共に、手に持っていた『つまらないもの』を差し出した。


 この『つまらないもの』というのは、俺が冒険者だった時に会った異国の男に教えてもらったものである。

 

 「初めての人や時節の挨拶時に持っていくお土産」であり、「相手に対する心づけ」だ。

 前回は手ひどい失敗をしたので、今回は挨拶と共に持ってきたのだが、どうだろう。



 窺うように彼女を見た俺が、彼女の丸くて大きな深いアメジスト色の瞳に映っていた。

 それ程までに、彼女がジッと俺を見ていたという事なのだと後から思えば分かるのだが、その時の俺はただ純粋に「まるで宝石みたいに綺麗な目だな」と思って見惚れただけだった。


 そんな俺に対する、彼女の第一声がコレである。


「すごいわね貴方! 『最強無双』『人望過多』の相が出てるわ! こんなの見たのなんて、この大陸の黎明期以来よ?!」

「嘘つけ。人生二度目の追放直後だぞ」


 パァッと表情を華やがせて、前のめり気味に言った彼女に俺は、真顔と共にそんなツッコミをさく裂させた。



 彼女は「驚いた」とでも言いたげに、分かりやすく目をパチクリとさせる。


 対する俺は、一拍遅れて顔をサァーッと青ざめさせた。


 し、しまったぁーっ!

 第一印象最悪だーっ!!



=====


「第2話:古の魔女と、ステータス『A⁴』?!」は、本日20:48頃に投稿予定です!

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2025年12月30日 20:48

今年で四十路の冴えないオッサン、二度の追放を経て無自覚無双⁉ ~【神に愛され過ぎ】で加護不良だったと判明! ぬいぐるみ姿のモフモフ神様を仲裁してたら、いつの間にか世界を救う~ 野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中 @yasaibatake

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