第4話 平民おっさん、エレオノールのためにキレる
「お前、それ以上エレオノールの悪口を言うな」
「ひっ……な⁉ こ、この部屋で戦闘とか……」
俺は警告代わりに風魔法を使用した。
もちろん教師に向けてではなく、俺の目の前にある机にだ。
「机が真っ二つではないか⁉」
「どういうつもりだ!」
これ以上、エレオノールの悪口を続けるようであれば、お前たちもこうなる、という意味を込めた警告なんだが……伝わらなかったか。
「まぁ……いいだろう」
と、ここでニタニタと不気味な笑顔を浮かべるヴァルドが結論を下した。
「とりあえずは採用を認めようじゃないか。な? ここで戦闘を行っても仕方あるまい」
事態が悪化するのを嫌がっているのか、ヴァルドは話を切り上げようとする。
「その前に――――エレオノールへの謝罪を……」
「では、この場は解散と言うことで」
謝罪するつもりなんてないのだろう。
彼らは貴族だ。プライドがある。
平民ごときに頭を下げたくないのだろう。
「エレオノールへ謝罪しろ!」
ああ。また余計なことを……。
自分でも情けなく思ってしまう。
でも、やっぱりエレオノールへの侮辱についてちゃんと謝罪をしてほしかった。
その純粋な想いをぶつけたのだが……。
「だ、誰があのクソ平民学長に謝罪をするものか⁉」
若手の貴族教師がそう言う。
他の教師も同様の意見だろう。
するとここでヴァルドまたもや口を開く。
「おい。そこの君。謝罪を」
「ちょっ、え⁉ ヴァルド先生それはないですよ!」
なんとヴァルドは若手教師に対して謝罪するように促し出したのだ。
「――――す、すみませんでした」
「それでいい。それで」
しかし、若手教師はこれ以上反抗することもなく素直に謝罪してきた。
「い、いや……まぁ、こちらこそ怒ってすまない――――お互い大変だろうがこれから頑張ろう」
そう言って手を差し出す俺。
だが、残念ながら相手から握手が返されることはなかった。
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結局、エレオノールの後押しもあって、俺はなんとか臨時採用という形で学院に籍を置くことになった。しかし、反発の大きさは想像以上だ。
この学院で平穏な生活を送るのは、文字通り茨の道となりそうだ。
「あ、ヴァルド先生。あのときは助けていただいて――――」
帰り道。
ヴァルドに遭遇した。
圧倒的不快感を露わにしていたが、一応助けられたようなものだからお礼をしようとする。
――――しかし、彼もまた貴族なのだ。
「謝罪を促した件だな? 勘違いするな。あれは学院の権力トップは自分であると誇示するための行為だ。目の前で若手教師が私に跪けば誰がこの学院の主かサルでもわかる」
「……あ、あはは」
やっぱ善意じゃないですよねー。
「よいか、レイドとかいう平民教師よ」
ヴァルドが一歩踏み出し、俺の顔を覗き込むように言った。
その目には憎悪にも似た感情が宿っている。
「お前のような不純物がこの王立魔法学院に居座ることは断じて許さない。我々貴族教師陣は貴様を徹底的に排除するつもりだ。すぐにこの学院から追い出してやるからな。それまで、せいぜいこの貴族の聖域で、惨めな思いをしながら過ごすがいい! 貴様には貴族の生徒を教えるなど、100年早い!」
「……」
「貴様がこの学院にいる限り、貴族の生徒は1人として貴様の授業など受けぬだろう! そのうち、学長も貴様を見限るさ! そうなれば、お前はただの厄介者だ!」
「ま、まぁ頑張りま――――」
「せいぜい、平民らしい下らない真似をして、嘲笑の的になるがいいさ!」
ヴァルドの言葉が耳の奥で反響する。
彼の言葉はまるで俺という存在そのものを否定するかのような響きを持っていた。
「やれやれ、苦労しそうだな……。だが、若い学長がこれだけ頑張っているのだ。俺が諦めるわけにはいかないだろう」
俺は静かにそう呟く。
心の中で彼らの言葉を反芻する。
勇者の娘を1人で育て上げ、魔王討伐という壮大な任務すら成し遂げたこの俺にできないことなどないはずだ。
この貴族どもの腐った根性を叩き直してやるくらいの気概はあった。
だが、今は大人しくしておこう。
俺の信条は『静かにしてれば誰も傷つかない』だからな。
無駄な争いは避けたい。
俺はただ、エレオノールが頼んでくれたように、教師として彼女を助けたいだけなのだ。そして、あわよくば、平和な日々を過ごしたい。
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元勇者パーティーの雑用係のおっさん、実は最強でした ~魔法学院で教師になり、見下す生徒や同僚相手に無双する~ 芽春誌乃 @meharushino
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