未知の・・・

口羽龍

未知の・・・

 進(すすむ)は山道を歩いていた。進はハイキングが趣味で、以前からここに行きたかった。この辺りの樹海は、いまだに知られていない場所が多く、未知の樹海と言われている。噂によると、ここから帰ってきた人は1人もいないと言う。本当だろうか? ならば、自分が行って、最初の生還者になってやろうじゃないか。そして、全世界に知れ渡るんだ。


 進の目の前には広い樹海が広がっている。山道はここで途切れている。この先は全く開発が進んでいないようだ。そして、人気が全くない。今さっきまでは茶屋らしき建物の跡があったのに、その先には全く何も見当たらない。この先はどうなっているんだろう。進はワクワクしていた。まだ訪れた事がない場所に行くと、ワクワクしてくる。どうしてだろう。


「この先か」


 進は前を向いた。その先にはどこまでも続いているような樹海が広がっている。とても広い。どこに樹海の終わりがあるんだろう。終わりまで行ってみたいな。その先には何があるのか知りたいな。


「何があるんだろう」


 進は楽しみにしていた。以前からこの樹海の話は聞いた事がある。この樹海は絶好の自殺スポットと言われているが、変な噂が飛び交っている。でも、だからこそ行ってみたいものだ。


「わからないけれど、進もう」


 進は山道を抜け、獣道に入った。雑草が生い茂っている。高い木々がそびえ立っている。おそらく原生林だろう。とても立派だな。何年前からここにあるんだろう。全くわからないな。歩いていると、鳥のさえずりが聞こえる。ここは自然豊かな所だな。それにしても、本当にここは生きて帰ってきた者はいないんだろうか? 雰囲気的に、そう思えないんだけど。


「静かだな。さすがは秘境」


 進はその後も進んでいった。だが、先が全く見えない。どこまで行ったら終わりが見えるんだろう。だけど、進まないと。進んで、抜けた先にある風景を見つけたら、その時の達成感は半端ない物だろうから。


 と、進は上空で鳥の声を聞いた。トンビだ。だが、全く見えない。木々に囲まれているからだ。里山を歩いていると、よく聞こえてくる。都会ではあんまり聞かない、里山の音だ。とてものどかだな。


「どこまでも続くな」


 と、進は何かの声を聞いた。大きな声だ。ここには未知の動物が住んでいるんだろうか? ここは未知の樹海だから、まだ知られていない生物がすんでいるのでは? どんな生物だろうか? とても気になるな。もし発見したら、テレビなどで話題になるだろうな。


「ん?」


 進は振り返った。だが、そこにはどんな動物もいない。今さっきの声は、何だったんだろうか? 上空でしたんだろうか? それとも、姿を隠したんだろうか?


「気のせいか・・・」


 進はほっとした。そして、また進みだした。きっと気のせいだ。もっと進もう。その先に出口があるだろうから。その先には何があるかわからない。それを見つけるのが楽しい。


「進もう!」


 だが、進は徐々に不安になってきた。ここはどうして入ると生きて戻ってこれないんだろうか? まさか、ここには未知の怪物が住んでいるのでは? 帰ってこれなかった人々は、その怪物の餌食にされたのでは? もしそうなら、自分の命も危ないだろう。


「うーん・・・。本当に大丈夫、だよな・・・」


 その時、進は背後に何かがいる気配を感じた。進は振り向いた。


「えっ!?」


 だが、そこには誰もいない。今さっき誰かがいた気配がしたのに。何だろう。進は徐々に怖くなってきた。早くこの樹海を抜けないと大変な事になる気がしてきた。早く抜けないと。


「やっぱりいないな」


 進は再び歩き出した。と、進はある足跡を見つけた。まるで恐竜の足跡だ。もう恐竜はこの世界からいなくなったのに、何だろう。まさか、何億年前の痕跡がいまだに残っているんだろうか?


「ん? この足跡は・・・」


 進は驚いた。とても大きな足跡だ。これは大発見だな。足跡がこんなにはっきりと残っているなんて。この樹海はとても素晴らしいな。いろんな発見がある。もっと歩いていたら、もっと素晴らしい発見があるのでは?


「大きい! 何だこの動物は?」


 突然、進は何かの気配を感じた。後ろに何かがいる。何だろう。


「ん?」


 進は顔を上げた。そこにはとてつもなく大きな怪獣がいる。まさか、あの怪獣の足跡だろうか?


「ギャーーーーーーーーーーーーーー!」


 進は悲鳴を上げた。まさか、自分は食べられるのでは? そんなの嫌だ。早く逃げないと。


「ガオーーーーー!」


 進は逃げられなかった。そして、怪獣にかみつかれ、あっという間に食べられた。


 翌日、その樹海を源流とする川には、赤い血が流れていたという。人々は思った。また1人、未知の樹海に入り、そこにいるという未知の怪獣に食べられたんだろうと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未知の・・・ 口羽龍 @ryo_kuchiba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画