親友の彼女と親友の浮気相手の相談役やっていたらいつの間にか…

田中又雄

第1話 最悪の役回り

 俺の名前は竜胆 和樹。

都内の普通の公立高校、桜ヶ丘高校の2年生だ。


 部活は特にやってなくて、授業が終わったら友達とダラダラ話すか、家でゲームしてるか、そんな毎日だった。


 学校は古い校舎が並んでて、裏手には誰も来ない雑草だらけのスペースがある。


 その静かな場所が好きで、たまに一人で本読んでいたりしていた。


 すると、時々親友の森坂 恭弥が、わざわざやってきて、声をかけてくれた。


「まーた、そんなところで本読んでるのかー?」


 彼とは小学校からの付き合いだった。

恭弥は明るくて人気者で、サッカー部でレギュラー張ってる。


 俺とは正反対だけど、なんか気が合って、小中高と仲良く、基本毎日一緒にいた。


 そんな恭弥には彼女がいた。

名前は三日月 凛。

俺と恭弥とはクラスメイトであり、凛はクールビューティーって感じの美人だった。


 黒髪ロングで、勉強もできて、女子のグループの中心にいる。


 恭弥と凛が付き合い始めたのは去年の夏祭りからで、みんなから「お似合い」って言われてた。俺もそう思っていた。

少なくとも、あの出来事を見るまでは。



 ◇


 あれは、放課後のことだった。

授業が終わって、恭弥が「部活遅れるかも」って言って急いで教室を出たあと、俺は誰も使わないことで有名な旧校舎図書室に向かっていた。


 あそこはなかなかのいいスポットであり、放課後よくそこで時間を潰してから家に帰っていた。


 そして、いつものように、本を読んでいるとその図書室の扉が開く。


 基本的にあまり立ち入りするなと言われていたこともあり、ビビって物陰に隠れた。


 特に覗き見る気なんてなかったが、誰が入って来たか確認しようとしたところ、視界の端に二つの影が映った。


 それは…恭弥と、クラスメイトの我妻 明菜だった。


 我妻さんは明るい黒髪ポニーテールで、大人しめでだけど可愛くて胸が大きいが故に男子から密かに人気な女の子であった。


 そして、俺の密かな片想いの相手だった。

まさか、2人が現れるとは思っておらず、目が離さずにいると、恭弥が彼女の腰を抱き寄せて、唇を重ねていた。


 それはキスだ。

それも…深い方の。


 校舎の影で、夕陽が差し込む中、二人は夢中になってて、周りなんか見えてないみたいだった。


 俺は息を潜めて動けなかった。

心臓がバクバク鳴って、逃げようとしたけど、足がすくんだ。


 その時、彼女の目がこちらに向いたのが分かった。


 夢中になりすぎて、俺は完全に隠れきれていなかったことに気づき、急いで体を隠した。


 彼女の瞳が一瞬、驚きで揺れた。

恭弥はこちらに背を向けており、気づいてないみたいで、キスを続けようとしたけど、彼女がそっと体を離した。


「……今日は…ここまで」というと、恭弥が「まだいいじゃん」というも、俺に気づいていたからか、そのまま図書室を後にした2人。


 二つの意味で俺はショックを受けた。

恭弥は浮気してたのか?

凛の彼氏なのに?


 そんな話はもちろん聞いたことがなかった。

というか、俺は恭弥にだけは言っていたのだ。

彼女のことが好きだと。


 なのに…なのに…。

胸が裂けそうなほど辛かった。


 だけど、あのシーンが頭から離れなくて、結局夜も眠れなかった。


 その翌日のこと。

俺は放課後、1人の女子に呼び出された。


 1人目は恭弥の彼女である凛だった。

放課後の教室で彼女はいつものクールな表情を崩して、俺の袖を掴んでこう言った。


「ねぇ、和樹……恭弥、浮気してると思うんだけど。何か知らない?」


 俺は心臓が止まりそうになった。

知っている。

でも、言えるわけもなかった。


 たった1人の親友だから。

俺の好きな人と浮気しているけど、それでも俺は言えなかった。

だって、別に俺と我妻さんは別にいい関係だったわけでもない。

俺の一方的な片思いなんだから。

だから…別に取られたとかでもないんだよなと、そう自分に言い聞かせていた。


「…知らないよ。気のせいじゃない?」って、必死で誤魔化した。

でも凛は目を細めて、ため息をついた。


「そう…。そっか。じゃあいいや。ただの勘みたいなものだから、違うならいいの。けど、何か聞いたら教えて。それと…相談に乗ってくれる?」と、言われてしまった。


 断ればいいものの、その必死な姿と知ってしまっているが故の罪悪感から断ることができなかった。


 結局、俺は頷いて、相談役になることにした。



 ◇


 その翌日の放課後、次は我妻さんに呼び出された。


 校舎裏――あの場所だ。

彼女はベンチに座ってて、俺を見上げた。

頰が少し赤くて、目が少し潤んでいた。


「竜胆くん……あの時、見てたよね? 恭弥くんと、私のこと」


 開口一番そう言われた。

ド直球な言葉だった。

俺は言葉に詰まって、それでも頷くしかなかった。


 すると、彼女は深呼吸して、続けた。


「私ね…恭弥くんの浮気してるの。よくないことだって言うのは分かってるけど…。別れてとかは言えなくて…その…いつの間にか本気で好きになっちゃって…。でも、凛さんのこと考えたら、こんなのダメだってわかって…。だから…相談に乗ってほしいの、竜胆くん。恭弥くんの親友だから、知ってることも多いでしょ?」


 その言葉に一瞬全てをぶちまけたくなった。

けど、そんなことをしても、意味がないことはすぐに分かった。


 相談役…か。

でも、俺は凛の相談も受けてる。


 どっちにも本当のことは言えない。

それでも…我妻さんと話せるだけで俺は嬉しくて…結局その頼みを断ることができなかった。


 そうして、俺は親友の彼女の相談役と、親友の浮気相手の相談役という二つの役割を担うことになったのだった。

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親友の彼女と親友の浮気相手の相談役やっていたらいつの間にか… 田中又雄 @tanakamatao01

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