第3話 追跡
リウスとエレナが街を出てから、夜明けまではまだ時間があったが、彼らの逃走はすでに露見していた。アシュラフの住民は、その夜の内に彼らの家がもぬけの殻になっていることに気づいた。恐怖と伝承への盲信が、彼らを一つの集団へと変えていた。
「見つけ出せ!あの呪われた光を!闇の騎士を呼ぶ元凶を!」
街の自警団が、手に松明と農具を持って追跡を開始した。彼らはもはや、隣人であった家族を救おうとする理性を持っていなかった。あるのは、世界が滅ぶかもしれないという、純粋な恐怖だけだった。
森の入り口まで一時間ほど進んだところで、リウスは背後から聞こえる、ざわめきと怒声を聞き取った。
「くそっ、もう気づかれたのか!」
リウスはエレナを振り向き、赤子を抱えた妻の顔が青ざめているのを見た。
「エレナ、走れるか。森の奥へ。あの川を渡れば、一旦足跡をごまかせるはずだ」
エレナは頷き、よろめきながらも森の奥へと進む。しかし、赤子をしっかりと抱きしめているため、その速度は遅い。
松明の光が森の木々の間にちらつき始めた。彼らの距離は急速に縮まっている。リウスは、追手の中に、かつて笑い合った隣人の顔を見た。その顔は怒りに歪み、憎しみに満ちていた。
「リウス!やめろ、戻ってこい!世界を滅亡から守るんだ!」
「この子が何をした!ただ生まれただけじゃないか!」リウスは叫んだが、その声は追手の喧騒にかき消された。
とうとう、追手の一人が彼らに追いついた。自警団の先頭にいた男が、手に持つ鈍く光る熊手を振り上げた。
「渡せ!その呪われた赤子を!」
リウスはエレナの前に立ち塞がり、持っていた粗末なナイフを構えた。
「やめろ!」
一瞬の静寂の後、金属と金属がぶつかる音、そしてリウスのうめき声が響いた。リウスは肩に浅い傷を負ったが、体当たりで男を突き飛ばした。
「エレナ!走れ!」
エレナは背中を押されるように、必死で森の中を駆けた。後ろから聞こえる追手の足音と、リウスが再び彼らの進路を阻もうと奮闘する音が遠くなる。
エレナは小さな川にたどり着いた。冷たい水が、疲れ果てた彼女の足首を濡らす。振り返ると、松明の光はすぐそこまで迫っていた。
「ごめんなさい…ごめんなさい、リウス…」
エレナは決死の覚悟で、赤子を抱きしめたまま川の中へ飛び込んだ。冷たい水は、赤子の光を隠してくれるかのように見えた。彼女は川の流れに身を任せ、ただただ、我が子の命を守るため、暗闇の彼方へと流されていった。
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