第2話 呪われた光

賑やかなる自由都市アシュラフ。石畳の上を、市場の活気と職人の槌音が常に満たしていた。しかし、リウスとエレナの慎ましい家では、喜びはすぐに凍てついた恐怖へと変貌した。

リウスの腕の中にいる赤子は、生後わずか三日。名はまだない。その小さな胸元には、透き通るような肌の下に、夜空に浮かぶ星のように淡い金色の光の紋様が浮かんでいた。それが、人々が口にする「光の覇王の印」だった。

リウスは震える指で印を覆い隠そうとした。エレナは涙で頬を濡らしながら、赤子の健やかな寝顔を見つめる。


「ああ、なんてことだ…」リウスは掠れた声で呟いた。「この子が、私たちを救ってくれるかもしれないのに…」


エレナは顔を上げ、夫の目を見つめた。「いいえ、リウス。伝承は、闇の騎士を呼ぶ呪いだと言われている。街の人々は、もうこの印の意味を知っているわ。昨夜、隣家の者が私たちを見る目が…まるで、疫病神を見るようだった」


彼らの耳には、昼間、街角で囁かれていた声が、亡霊のように蘇っていた。


「光の覇王を生ましめる家は、世界に破滅をもたらす」

「闇の騎士が来る前に、芽を摘まねばならぬ」


その夜、彼らは決断した。この印は祝福ではない。愛しい我が子の命を、そして街の平穏を守るために、彼らは逃げるしかなかった。

リウスは最小限の食料と毛布をリュックに詰め、エレナは赤子を幾重もの布でしっかりと包み込んだ。胸元の光が漏れないように、厳重に。

家の裏口、月の光も届かぬ暗がりを、二人は足音を殺して進む。リウスは街の出口へと続く細い裏道を選んだ。

石畳から土の道へ、そして森へと続く薄暗い獣道へ。


「寒くないかい、私の光…」エレナは抱きしめた赤子にそっと囁いた。


街の灯りが遠ざかり、代わりに森の暗闇が彼らを飲み込んでいく。

リウスは後ろを振り返った。自由都市アシュラフのシルエットが、まるで自分たちを呪うかのように闇の中にそびえ立っている。


「許してくれ…この子を救うために、世界を救うことを選べなかった私たちを」


彼らは、世界を救う「光」を抱えながら、世界から逃げ出した。そして、その赤子が大人になる頃、世界は彼らが選んだ道が、本当に平和への道であったのかを知ることになるだろう。あるいは、誰も予期せぬ形で、闇を呼び寄せてしまったのかもしれない。

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