第3話:あの頃の友達

友達と言うのは恥ずかしい。僕は友人という言葉を好む。


劇団には芳信という男がいた。僕と同い年で、うまが合った。同じ学校にいたら、教室の隅でかたまって話していただろうなと思う。地味であっても、暗くはない。居心地のいい男だった。


僕たちはよく、稽古終わりに飲みに行った。六百円のラーメンで一日の空腹を満たす日もあれば、奮発して居酒屋に入る日もあった。


居酒屋で腹をふくらせるには、白ご飯を頼む必要がある。大盛り無料なのが有り難いよなと、にひひと笑う僕に合わせてノブ君も笑った。


あの店の鳥の刺身が美味いんだ。醤油と胡麻油のタレに潜らせれば、胡麻の粒と輪切り唐辛子が絡む。割り箸の先が染まる。鳥肝を勿体無いからと、あんまり長く置いておくと店主に叱られた。


見かけによらず、ビールの飲めない僕をノブ君はいつも茶化した。そんなに多くの居酒屋を訪れたことがある訳じゃないけど、カシスオレンジが舌に合うと思う。同じ女みたいでも、梅酒だと母さんだろう。


とてもよい友人だった。愚痴ってみても、小馬鹿にしてみても、いつも波風立たない返事をくれた。それでいて、お世辞や社交辞令には感じさせない。ノブ君はとてもいい奴だった。僕にとっては。


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