そん時や、そん時

なかむら恵美

第1話

太郎も言った。

パンケーキと、珈琲の香りが店内を充満させる。

「イザとなったら、全く俺も自信がない」

花子とは気が知れた友達だ。近くに住んでいる。

お互いの家を行き来する間柄で、一時期はあった。


アイドルの話から、昨今の諸々。

「家にいて、火災が起きたら」

仏壇関係。両親と祖父母の遺影に位牌、仏壇の仏2体。

これを瞬時に運べるかしら?どうすればいいとの花子への返事だ。


お互いに一人っ子。

それぞれの親が他界した際、喪主を務めた。

独り身でマンション住まいであるけども、仏壇関係はちゃんとしている。

造花ではあるが飾っている。

線香を手向け、水と麦茶を毎日、替えてから出社するのが日課だ。


「瞬間的に、パッと反応できないと思うのよね。かといって、

常にあなたの言うように、袋に入れておく、って訳にもゆかないし」

「そうなんだよなぁ」

新しい客の2,3が通り掛かり、店員が動く。

懐中電灯も大事だけど、落ち着いてから必要になる書類。

ハンコとか通帳、年金手帳。財布にマイカードも、別の袋に入れて保存。

持ち運べるようにしておかないとな、

亡き祖父が消防隊員であった太郎は、花子にも時に言う。


「どうしたもんかねぇ」

「喪主故の疑問、ですな」

しかし、彼らの視線は、店員が運ぶものにあった。

「アレ、美味そうじゃん!何て言うのかな?注文しよう」

「そうしよう!」

にこやかな視線が、互いの言葉を理解する。

「そん時や、そん時だ」


                             <了>

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そん時や、そん時 なかむら恵美 @003025

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