シミュレーション妨害済

テヴェスター

シミュレーション妨害済

「...なんだよ、あれは…?」


エリック・バートンは、大きくて白い人体を遠くに、ぼやく。


限りなく宇宙に存在する、裸の女性。


彼女は手を伸ばして、ビックバイパーを掴もうとするので、


「くそっ、ー」 避けた。


何も掴めなかったその手は、引いてゆく。


どうやら、


「...選択の余地は無さそうだな。」


****


始めの攻撃戦。


人体は怯みをみせない。


むしろ、「喜んで」いる様にも見える。


次の攻撃戦。


また手が伸びる。


その次、ビックバイパーが弾かれた。


致命的なダメージ。


「っっっ、くそ! ...動かない...っー」


エリックが戦闘を回復しようとするのも後がなく、ビックバイパーはびくともしなかった。


そのうち、ついに手が戦闘機を掴み取る。


暗闇のコクピット内に白い液体が流れてくる。


「!っっっ。 くっー ぐ。 う」


応対する隙も見せずに、エリックと全てを包囲する。


もう何も見えない。


「......」


****


「......ここは、何処だ?」


エリックが目覚めた先。


白い空間に、浮いている。


人が向こうから来る。


先程の人体にそっくりだが、綺麗な肌色だ。


「地面」を歩いている。


エリックも足を着く。


見つめ合う。


近づき合う。


顔と顔を合わせる。


体が触れてー


「くっ、っ。」


二人、倒れた。


気を取り直して、見る。


少し不器用な、ニンマリした、女性の顔。


囁きが近づく。


...「一緒になろう... 一緒になろう。 その方が楽。」


「...は?」


戸惑うばかりのエリック。


****


気づき。


見つめた先、触れ合う胸。


手が伸びる。


「っ!」


産の顔が叩かれた。


確かにヒリヒリする。


女性は見つめる。


「......俺は、お前を... ...知っているのか?」


...「私は知っている... あなたは覚えていない。」


触れ合う。


少しづつ誘惑が確かになる。


エリックは抑えている様だ。


****


...気づき。


確かな、気づき。


あの時の、出会い。


あの時の、別れ。


遠くて、近い、存在。


何かを探す手を、止める掴み。


それは手を掴み合い、体に触れ合う。


「っっっ。 っ...」


初めて感じる。


「......望むのは、俺か...?」


...「いずれ、そうよ。」


顔が近い。


どうやら、


「......選択の、ー 余地は、無さそうだな...」


本当に近い。


...キス。


シミュレーションが妨害された。


****


...「あなたの、名前は...?」


「...ああ。 ...俺は... ...ただのパイロットだ。」


「...ただ、俺を名前で呼ぶなら“エリック”と呼んでくれ。」


「......“エリック・バートン”。」


「...みんな、俺の事を単純に“パイロット”と、呼ぶがな。」


「...何でもいい。」


...「...エリック。」


...「好き。」


「......ああ。」


...もう一度、キス。


****


...「私達... そろそろ、お別れだわ。」


「...?」


...「シミュレーションは、復元率に高いの。」


「...そうか。」


「......また逢えるのか。」


...「私は、いつでもそばに居るの。」


...「エリック。 私はこの世界の上に居るから。」


「......」


目の前が、ランダムノイズになっていく。


...「...さようなら。」


「......女よ。 ...俺は、ー」


プツッ


シミュレーション、再開。

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