輪廻を止められている霊界の巫女たち

櫻絵あんず

輪廻を止められている霊界の巫女たち

 霊界には輪廻を止められている巫女たちの姿があった。


  その輪廻の停止は、この世で「愛」の幻影に出会っってしまったため、起きたものであった。


 巫女の業務では彼女たちは霊にふれることがあったのだが、ある時に本物の愛を持つ霊と交流させられ、その心にはそれはそれは深く刻まれた。なぜならば、彼女たちがふれた本物の愛を持つ霊とは、神であったからなのであった。愛を感じられて幸せだと思っていたのだが、それは怖いものであることで、その時は巫女はその怖さには全く気付けないでいて、その愛を畏れ多くも自分から下さいと願い出る巫女までいた。その巫女のなかにはその愛を自分に向けたいという欲から抜け出せないままこの世を去るものもいた。その巫女たちは集団となり、彼から授けられた「愛」の幻影をエサにして、この神のかけがえのない女神という存在を攻撃していた。


 巫女たちは神との交流はそもそも禁忌であり、わきまえていたのに、逆らえない人から指示されて、それぞれの巫女はふれあいたいけれどふれられなかった神へふれられることに驚いた。巫女たちは怖さや期待や憧れが叶う気持ちが入り交じり、その結果予想だにしなかった大きな愛にであってしまうのだった。そのバランスは巫女たちを虜にするのに十分なもので、巫女たちはその愛を欲しがるようになり飢えていった。そしてそのままこの世を不運にも去ってしまった巫女は、飢えたままあの世を彷徨うのだった。肉体をなくしたことは生きている間には想像もできないくらいかなしかった。


 輪廻を止められている巫女たちの中に渦巻いていた感情とは思えない泥のようなエネルギーは、それはそれは複雑に絡み合っていた。それは嫉妬や悲しみや後悔や申し訳なさの感情から成り立っていて、それが何らかの力で圧縮されて一体化してしまったようなものであり、それが攻撃の理由となっていたことすら自覚できていなかった。そのいくつもの感情を圧縮した力とは何であるかは、女神が見つけ出したのだが、それは先であるから今はまだ触れないでおこう。その攻撃は長年にわたり神の逢瀬をも邪魔する物であり、その機会を霊界にて察知したならば素早く役割分担して、ある巫女は女神の美をターゲットにして執拗に引き下げようとがんばって、また別のある巫女は男神の逢瀬の道を塞いで暗くして、見えなくして惑わせて、さらには女の武器をも使って誘惑をした。


 なんとその神は創造神として根源に位置する神であったから、その攻撃は間接的にこの地球を暗くすることに繋がってしまっていた。もちろん彼女たちにはその目的は想定外であり、望まないもの。


 あるとき再びその神々は逢瀬の機会を持とうとしていた。久しぶりの逢瀬の機会で、それはそれは楽しみにしていた。ようやくこの世での逢瀬が叶うと思い愛を確かめ合っていた。それを見た巫女の一部は攻撃を企てた。もう輪廻寸前まで自らを取り戻せていた巫女たちはその攻撃を選ばなかった。7割の巫女がその立場でいて、そのなかのほとんどの巫女が邪魔を止めようとしたのだったが、のこりの3割はいつものように数年ぶりの邪魔を企てて楽しんでいた。


 男神はいち早くその異変を察知し、今回の逢瀬を見送らなくてはいけないかと思考をしたところ、女神もその男神の思考を察知し、彼のことを愛していたから、見送ってもいいと優しく告げて、さらに彼の身の回りのことを心配した。



 「もとの場所にもどれる? 」と。


 彼は言う。


 「戻れるよ。大丈夫。今の周りの協力してくれている人間は理解をしてくれているよ。貴方の身の回りと一緒だ。」と。


 安心した女神と、感銘を受けた男神。愛は深まった。




 女神は大体の事情を把握して、巫女たちに素直に疑問があって、聞いてみた。


 「幸せの彼の姿を望まないの? 好きじゃないの?」と。


 大半の巫女はその女神の気持ちが乗った言葉で目が覚めた。なぜなら、女神の愛は、逢瀬が叶わない長い年月も彼を包み込んでその選択を受け入れていて、それを見ていたからだった。その巫女5霊は本当はわかっていた。女神にはかなわないことに。見たくなかった。その逢瀬を。


 女神は賢かった。チャンスは逃すかとたたみかけるように、上手に質問をして、ひとりずつ巫女を輪廻のルートへ導いた。最後のひとりの巫女は言う。


 「彼に忘れてほしくない」

 

 続けてその巫女は言う。

 

 「私は忘れない」


 「あなたは覚えていたいの?」


 巫女ははっとした。なぜなら自分のことでなくて、彼に覚えていてほしいからだった。怖かった。悲しかった。自分のことを忘れられることを。


 「覚えていても、いいんだよ。忘れてもいいんだよ」


 巫女は気付いた。本当は申し訳なくて、忘れたかった。それに気付いて、また申し訳なくなった。


 巫女がふれた「愛」は男神が女神に持つ真実の愛のまぶしさであり、それは愛の真ん中にはふれていなかったのにもかかわらず、まぶしすぎてふれてしまっていたのだと、女神は分析をして、見守るさまざまな思いを抱えた巫女それぞれの心に深く響いた。


 そして彼女たちを竜巻のように取り巻いて縛り付けていた、複数の感情が入り混じった長い束を作り出していた元凶の力とは、女神の分析によると自己嫌悪ではないか、と。


 そして女神は世ににこの物語を小説にしたらいいのではないかと思いついたから、この小説は生まれたのであった。


 巫女は感謝している。今は女神と冗談を言い合い、仲良くなって、輪廻の道へと一歩歩んだ巫女は「もう邪魔はしないから神の逢瀬を見せてよ」と言ったら、これはチャンスだと女神は「邪魔しないって約束する?」とこれまたかわいく聞いた。巫女は素直に「うん」と言えた。


 「賢い女神に約束させられっちゃたって書いといてよっ」可愛く巫女は女神に頼んだから、この言葉も載せておこう。男神は女の可愛さと賢さと怖さを改めて思い知り、苦笑いした顔で「ふはは」と笑った。


 巫女たちと女神との分析会はまだ続いているようだ。不倫談議にまで発展している。


 女神は聞いた。


 「はじめから、後悔するってわかっていたら、不倫をしないと思う人!」



 巫女は答えた。


 「はーい」


 

 女神は、じゃあ小説にして、疑似体験させたらみんなに優しいのかもね、と思い、この小説を世に出すことを決めて良かったと嬉しくなった。



 女神は言った。


 「不倫するのは、その男の人が魅力的で惹かれるから、好きだからなんだよね?」



 巫女のほとんどは言う。


 「奪いたいからだよ」



 女神と男神は言う。


 「へぇー」


 意外だった。



 女神は言う。


 「奪われたいの?」と。



 巫女は「ううん」と答えた。



 女神は諭すように優しく可愛く言う


 「あなたたちの奪うは、あなたたちの奪われるを増やすんだよ」



 「そっかー」と巫女たちは、妙に納得したのだった。




 

 

 「愛してほしい」ために「愛」あらざる姿へと変貌していた巫女たちは、己の自己嫌悪による自己攻撃をやめた結果、女神への攻撃心から解放されて、無事に彼女たち自身の可愛らしさを取り戻して、輪廻のルートへと進んでいくのであった。






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輪廻を止められている霊界の巫女たち 櫻絵あんず @rosace

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