第3話 幻影の歴史
俺は仲間たちに見捨てられ、その結果――Aランクダンジョンの奥底へと突き落とされた。
だが、そこで一冊の書物と出会い、『ノブナガ』という聞き慣れない名の存在を死霊術で呼び出した。
そしてノブナガは、常識外れの力でレッドドラゴンを一撃のもとに屠ったのだ。
「じゃあワシは戻る。貢物が用意できたら、また呼ぶがいい」
「えっ!?」
俺が何かを聞く間もなく、ノブナガの身体は霧のように崩れ、書物の中へと吸い込まれていった。
「……なんだったんだ、あのおっさん」
「おっさんではない!」
「うわっ!?」
再び、書物から声が響く。
「あの……まだ、そこにいたんですか?」
「ふん。ワシはずっとここにおる。貴様の言動も、全て聞いておるぞ」
「……わかりました」
下手な独り言も言えないらしい。
「この書物を持っていくのだ」
「これを、ですか?」
「そうだ。この書物には、ワシ以外の人物も眠っている。何かの条件を満たせば、恐らく他の者たちも呼び出せるだろう」
――他の人物。
ノブナガだけでも規格外なのに、それ以外にも何かがいるのか。
正直、胸が高鳴るよりも、不安の方が勝った。
性格的にも、力的にも、軽い気持ちで召喚できる存在ではない。
条件があるのなら、なおさらだ。
改めて、書物の表紙を見る。
先ほどは余裕がなく、気にも留めなかったが――そこには文字が刻まれていた。
「……ファントムヒストリア。幻影の、歴史……?」
表紙の裏をめくると、前書きらしき文章が目に入る。
『この書物は、どこかの世界に実在した狂人たちの生きた記録を記す、死者の書である。世界の理を捻じ曲げるほどの力を持つ幻影。その歴史の一端を知りたいのであれば、この書物を手に取るがいい。(注意。頭のおかしい者しかいない。もしこれらを召喚できる人物が現れたとしても、使用は自己責任とすること)』
「……注意書きが一番怖いんだけど」
つまりノブナガも、かつてどこかの世界に実在した人物なのだろう。
どんな生を歩み、どんな死を迎えたのか――少しだけ、興味が湧いた。
前書きのすぐ隣、一ページ目には『ノブナガ』の名が刻まれている。
今は読む余裕がないが、いつか目を通すことになるだろう。
「さて……まずはここから脱出しないとな……」
素材を回収し、街へ戻る。
生き延びた以上、やるべきことは山ほどある。
◇◇◇
俺はノブナガを召喚した書物を道具袋にしまい、代わりに長剣を取り出した。
ドラゴンの素材は魅力的だが、あまりにも巨体すぎる。
俺一人では持ち帰れないため、爪だけを回収することにした。
長剣をノコギリ代わりに使い、悪戦苦闘しながらも爪の一部を切り取る。
その後、大部屋を調べる。
ダンジョンの最奥には、ほぼ例外なく脱出用の転移魔法陣が設置されている。
しかも、ボスの背後にあるのが通例だ。
ここはマジックサイクロプスが出現した階層よりもさらに下。
出入り口が一つしかない点から見ても、間違いなく最奥の部屋だ。
「……やっぱりあった」
床に刻まれた転移魔法陣。
これで、ようやく生きて帰れる。
俺は魔法陣に足を踏み入れ、意識が引きずられる感覚に身を任せた。
次の瞬間――ダンジョンの地上入口に立っていた。
周囲に人影はない。
パーティーメンバーは、もう街へ戻ったのだろう。
俺が死んだと思っているはずだし……正直、もう顔を合わせる気もなかった。
そのまま俺は、一人で街へ戻る。
商業都市ニルディオン。
名の通り、商売で成り立つ巨大な都市だ。
「この街に来れば、何でも手に入る……って話だけど」
現実はそこまで甘くない。
俺は街の外れにある、少しボロい小さな家を安い金で借りている。
目立たない場所で、目立たず生きるには丁度いい。
念のため、街中ではフードを深く被り、露店で適当な仮面を購入した。
これなら、まず俺だと気づかれないだろう。
家に着いたら、服も替えないと。
人目を避けるように路地を抜け、俺は自分の家に辿り着いた。
時間はもう真夜中になっていた。
「やっと帰ってきたぁ……」
扉を閉め、思わず全身で伸びをする。
今日は、本当に色々ありすぎた。
死んでもおかしくなかったのに、こうして生きて帰ってきている。
あの書物の中身も、落ち着いたらじっくり読む必要があるだろう。
腹は空いている。
だが、それ以上に眠気が限界だった。
「……飯は、明日でいいか」
俺はそのままベッドに倒れ込み、深い眠りへと落ちていった。
ネクラマンサーの狂人死霊術〜最弱の死霊術師がダンジョン最下層で魔術書を拾ったら別世界の偉人ゾンビを召喚できる死者の書だった件〜 藤白ぺるか @yumiyax
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ネクラマンサーの狂人死霊術〜最弱の死霊術師がダンジョン最下層で魔術書を拾ったら別世界の偉人ゾンビを召喚できる死者の書だった件〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます